相続登記申請書とは、相続した不動産や共有持分の名義を変更し、所有者を確定するときに必要となる書類です。
相続人の間で遺産分割協議に合意しても、未登記だと不動産や共有持分の所有者(名義人)は変わりません。
相続登記をしないまま放置していると「不動産を売却できない」「新たな相続が発生したときに登記がより大変になる」などの問題を抱えてしまいます。
相続登記申請書は自分でも作成できますが、記載ミスで間違った情報が登記されないよう、弁護士など法律の専門家と相談しましょう。
また、相続と同時に不動産や共有持分を売却するのであれば「弁護士と連携した不動産業者」に相談するのがおすすめです。相続登記から売却まで一括サポートしてもらえるので、スムーズに相続物件を現金化できます。
- 相続登記申請書は自分で作成できる
- 記載すべき内容と正しい書き方をおさえて相続登記申請書を作成しよう
- 相続登記申請に必要な書類は漏れなく用意しよう
相続登記申請書とは相続不動産の登記に必要となる書類
不動産の名義人が亡くなったとき、その不動産の相続に必要不可欠なのが「相続登記申請書」です。
相続登記申請をせずにいると法律によって、不動産が自動的に共有状態になってしまいます。
共有状態になってしまうと「不動産を自由に扱えない」「自分が知らないところで相続人が増え権利関係が難しくなる」といったトラブルの原因になってしまいます。
そのようなリスクを避けるためにも、相続登記申請書を作成し登記手続きをしましょう。
相続登記申請書は相続人でも作成できる
相続登記申請書は多くの場合、司法書士に依頼して作成してもらいます。
しかし、記載すべき事項が正しく書かれていれば、相続人が作成した相続登記申請書でも相続の手続きはできます。
相続登記申請書の作成にかかる金銭的負担・時間と相談して、自分で作成してみてはいかがでしょうか。
A4用紙を使用し黒色のボールペンかパソコンを使用して作成する
相続登記申請書は「破れにくい白色のA4用紙」を使用して「黒色のボールペンかパソコン」を使って作成する必要があります。
摩擦などで消えてしまうペンや鉛筆の使用は認められていません。
ちなみに、国や行政機関などで「相続登記申請書」という用紙が用意されているわけではありません。
法律で定められている形式はないが記載すべき情報がいくつかある
相続登記申請書には法律で定められている様式や書き方などはありません。
正しい書き方で、必要な情報が記載されているかどうかが重要になります。
法務局のホームページで、基本的な様式と記載例が紹介されているので、そちらも参考にしてみてください。
参照:法務局「不動産登記の申請書様式について 登記申請書の様式及び記載例17、18、19、20、21」
相続登記申請書のひな形と記載すべき内容
法務局のホームページで公開されている情報をもとに、相続登記申請書のひな形を用意しました。
このひな形を参考にして作成してみてください。
この項目では、ひな形を例に記載するべき内容について解説していきます。
参照:不動産登記の申請書様式について(法務局)「登記申請書の様式及び記載例 18)所有権移転登記申請書(相続・公正証書遺言)」
相続登記申請書に記載するべき9つの内容
不動産を相続登記するためには、相続登記申請書に記載すべき内容が正しく記載されている必要があります。
その中でも特に重要なのが、不動産の情報を正しく記載することです。
もしも、記載が間違っていると、相続する不動産の特定ができず登記手続きをうけられない場合もあります。
1.タイトルに「登記申請書」と記載する
用紙の上から6mm程度の空白をとり、書類のタイトルとして登記申請書と記載しましょう。
タイトルは用紙中央に記載すると、書類としてきれいに整います。
2.「所有権移転」か「持分全部移転」のどちらかを登記の目的として記載する
登記の目的の欄に記載する内容は、被相続人が所有している不動産の持分権によって変わります。
被相続人が不動産の権利を全て所有している場合「所有権移転」と記載、すべての権利ではなく共有持分を所有している場合は「〇〇持分全部移転」と記載します。(〇〇には非相続人のフルネームが入ります)
共有持分とは不動産が共有されているときに、所有している権利の割合のことです。
3.被相続人が亡くなった日付と登記する理由を原因の欄に記載する
原因の欄に「被相続人が亡くなった日付」と登記する理由として「相続」と記載します。
被相続人が亡くなった日付は、死亡診断書か死体検案書の「死亡したとき」の記載通りに日付を記載します。
死亡診断書は死亡日から7日以内に市区町村役場に提出する必要があります。
一度提出をすると死亡診断書は返却されないので、コピーをとっておくとよいでしょう。
4.相続人の名前・住所と被相続人の名前を記載する
相続人の欄に被相続人の名前を記載し、その下に相続人の名前と住所を記載します。
法務局から連絡がくる可能性もあるので、日中でも連絡可能な電話番号を記載しましょう。
また、複数人で不動産を相続し共有する場合は、共有者ごとの持分割合も名前、住所とあわせて記載する必要があります。
5.添付書類として「登記原因証明情報」と「住所証明情報」と記載する
添付書類の欄には「登記原因証明情報」と「住所証明情報」と記載します。
これは相続登記申請書の他に添付する書類を意味していますので、他のことを記載する必要はありません。
6.申請日と提出する法務局名を記載する
相続登記の申請日と提出先の法務局名を記載します。
法務局名には相続する不動産を管轄する法務局を記載しましょう。
不動産がどの法務局の管轄なのかは法務局のホームページから調べられます。
7.課税価格を「固定資産評価証明書」「課税明細書」をもとに記載する
固定資産評価証明書または課税明細書をもとに課税価格の欄に「固定資産の価格」を記載します。
課税明細書は年度始めに、固定資産税の振込用紙と一緒に送付されていますので探してみてください。
もしも、課税明細書が見つからない場合は最寄りの役所で固定資産評価証明書を取得しましょう。
8.課税価格の「0.4%」の数字を登録免許税として記載する
前の項目で説明した課税価格の「0.4%」にあたる数字を登録免許税の欄に記載します。
例えば、課税価格が「1,000万円」だとしたら登録免許税は
となります。
9.不動産の表示を登記事項証明書通りに記載する
登記事項証明書の記載どおりに、不動産の表示を記載します。そのとき記載すべき点は以下の4点です。
- 所在
- 地番
- 地目
- 地積
また、建物を相続する場合は以下の5点もあわせて記載しましょう。
- 所在
- 家屋番号
- 種類
- 構造
- 床面積
登記事項証明書の取得については、後の項目で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
相続登記申請書以外の必要書類を用意しよう
じつは、「相続登記申請書だけ」では不動産の相続は不可能で、他にも用意しなくてはならない書類があります。
その書類のいくつかは、相続登記申請書を作成する際に用意されているはずですが、新たに取得すべき書類もいくつかあります。
相続登記申請書の記載を終えたら、手元にある書類と以下の項目を見比べてみて、足りない書類がある場合は請求しましょう。
それでは、必要な書類と入手方法を詳しく説明します。
1.登録免許税と同じ金額分の収入印紙をA4用紙に貼り付けた収入印紙貼付台紙
登録免許税は収入印紙で納付します。
相続登記申請書とは別のA4用紙を用意し、収入印紙を「登録免許税」と同じ金額分貼り付けましょう。
相続登記申請の際に納める税金は、普段見かける収入印紙で納める税金よりも非常に高額なものになります。
コンビニなどでも収入印紙は購入できますが、登録免許税で納める収入印紙は役所で購入するべきでしょう。
例えば、登録免許税が4万円だとするとコンビニで用意した場合、200枚の収入印紙を購入することになってしまいます。
2.被相続人の出生時から死亡時までの戸籍謄本
相続人を確定させるために、被相続人の出生時から死亡時までの戸籍謄本を集める必要があります。
相続人を確定させることは親族からすると一見、意味がないことかもしれません。
しかし、被相続人に隠し子がいて誰もそれを知らなかったというケースも稀にあります。
もし、認知されていない相続人が後から判明すると、相続登記の手続きができない場合もあるので、そのようなトラブルを防ぐためにも出生時から死亡時までの戸籍謄本が必要です。
戸籍謄本は被相続人の本籍地のある役所で取得できますが、被相続人が本籍地を転々としている場合があります。
その場合は、最終地の記載がある戸籍謄本から元の本籍地まで遡り、その移動前の市区町村役場で戸籍謄本を取得します。
これを繰り返して、出生時までの戸籍謄本を取得する必要があります。
3.被相続人の住民票の除票
住民票の除票とは、引越しや死亡で住民登録が抹消されたことを記載したもので、相続の際は被相続人が本当に死亡しているか確認するために使用されます。
本来、住民票の除票は本人しか取得できませんが、明確な理由があれば親族でも取得できます。
相続で必要な場合「被相続人から不動産を相続登記する」ことが明確な理由として認められます。
相続人の本人確認書類と戸籍謄本などを用意して、役場に請求しましょう。
4.不動産の情報を記した登記事項証明書
登記事項証明書とは、法務局の登記簿に保管されている登記のデータを書類にしたものです。
登記事項証明書の請求は登記所や法務局でもできますが、自宅への郵送が可能なオンラインでの手続きをおすすめします。
オンラインでの手続きには書類や印鑑などがなくても、簡単なパソコン操作だけで請求できます。
参照:登記事項証明書の請求にはオンラインでの手続きが便利です(法務局)「2 オンラインによる証明書の交付請求手続のご案内」
5.最新年度の「固定資産評価証明書」または「課税明細書」
課税価格を記載するため、固定資産評価証明書または課税明細書を用意する必要があります。
課税明細書は年度始めに固定資産税の振込用紙と一緒に送られてきます。
もしも、課税明細書が見つからない場合は市区町村役所で固定資産評価証明書を請求しましょう。
6.相続人全員の印鑑登録証明書
相続登記申請には、相続人全員の印鑑登録証明書が必要と定められています。
仮に、不動産を引き継ぐ相続人が1人だったとしても全員分の印鑑登録証明書が必要になります。
印鑑登録証明書は相続人の住民登録がされている役所で取得できます。
また、顔写真付きのマイナンバーカードがある場合、市区町村によってはコンビニでも取得可能です。
こちらのホームページから、印鑑登録証明書のコンビニ交付が可能かどうか調べられます。
参照:利用できる市区町村(コンビニエンスストア等における証明書等の自動交付)
「遺言どおりに相続するとき」と「遺産分割協議で相続人を決めたとき」
遺言どおりに相続する場合は以上の6つの書類の他に、検認がされている遺言書を提出する必要があります。
検認とは遺言書が公的な書類として、認められるかどうかを判別する手続きのことです。
また、遺産分割協議の結果に基づいて相続する場合は別途、遺産分割協議書が必要になります。
遺産分割協議書とは、遺産分割協議の結果をまとめた書類のことです。
>>【相続の手間を省くなら】弁護士と連携した不動産業者に相談しよう
相続登記申請書が完成したら法務局に登記申請しよう
必要書類の準備ができ、相続登記申請書が完成したら法務局に提出して相続登記申請しましょう。
申請方法は3種類あり「窓口申請・郵送申請・オンライン申請」です。
それぞれの方法と特徴について以下で説明します。
法務局の窓口に直接書類を提出する「窓口申請」
法務局の窓口に直接、相続登記申請書を提出する最もシンプルな方法です。
この方法だと、窓口で担当者と書類の確認をしながら手続きできるため、ミスが少なく登記できる方法といえるでしょう。
ただし、法務局は平日の日中しか業務を受け付けていないため、人によっては時間をとるのが困難かもしれません。
また、法務局に直接足を運ぶ必要があるため、法務局の遠くに住んでいると少し不便な申請方法です。
相続登記申請書を郵送する「郵送申請」
相続登記申請書と添付書類をまとめて郵送して申請する方法です。
相続登記申請の手続きを全て郵送でおこなう方法なのですが、書類の不備があった場合は法務局まで出向く必要があるので注意が必要です。
封筒に「不動産登記申請書在中」と記載し普通郵便でなく、書留郵便で郵送しましょう。
また、還付を希望する書類や登録完了証の受け取りを郵送でしたい場合は、宛名を記載した返信用の封筒と書留郵便のための郵券を用意して同封しましょう。
登記の申請をインターネットでおこなう「オンライン申請」
家にいながらインターネットで登記の申請をおこなう方法です。
ただし、全ての手続きをインターネットで完了できるわけではなく、相続登記申請書以外の添付書類は窓口に提出するか、郵送する必要があります。
また、オンライン申請には「登記ねっと」という専用ソフトのインストールが必要だったり、電子証明書の取得や電子署名をする必要があります。
これらの手続きが非常に難しいため、非常に効率よく登記手続きできるシステムですが、登記を初めてする方やパソコン操作が苦手な方にはおすすめできません。
相続登記申請書の作成に必要な実費と司法書士に依頼する場合の相場価格
相続登記申請をする場合、司法書士に依頼せず全て自分で手続きしても、書類の手数料や登録免許税などの実費が必要です。
また、司法書士に依頼する場合は別途、司法書士報酬が必要です。
以下の項目で、相続登記申請に必要な実費と司法書士報酬の相場と説明をします。
自分で相続登記申請書を作成するときにかかる費用はおよそ「5万円」
相続人が自分で相続登記申請書を作成する場合、必要な実費はおよそ「5万円」といわれています。
戸籍謄本、登記事項証明書などの請求費用や、登録免許税を合わせた金額が実費としてかかります。
これは固定資産額が「1,000万円」であると仮定した場合の費用で、これよりも価値の高い不動産を相続する場合、相続登記にかかる実費も高くなります。
司法書士に相続登記申請書の作成を依頼するときの相場価格は「6万円から10万円」
司法書士に相続登記申請書の作成を依頼する場合、戸籍謄本の収集や固定資産評価証明書の取得など必要な添付書類の準備も、あわせておこなってくれるケースがほとんどです。
これらの準備も含めて、相続登記申請書を作成依頼するときの司法書士費用は「6万円から10万円」といわれています。
これはあくまで一例で、地域や相続の条件によって司法書士費用は大きく変動しますので実際に依頼をするときは、いくつかの司法書士事務所に見積り依頼するとよいでしょう。
司法書士に作成依頼する場合「実費+司法書士報酬」が必要
司法書士報酬には、相続登記申請の準備に必要な実費が含まれていません。
ですので、司法書士に相続登記申請書の作成を依頼する場合「実費+司法書士報酬」が必要な費用だといえます。
例えば、相続登記申請書の作成に必要な実費が「5万円」司法書士報酬が「10万円」だとすると、合計金額の「15万円」が相続登記申請書の作成に必要です。
相続登記申請書の作成で困ったら司法書士に相談しよう
この記事では相続登記申請書のひな形を参考に、必要な書類や書き方、登記の申請方法などについて解説してきました。
記事を読んだだけでは、相続登記申請は簡単だと思ったかもしれません。
しかし、実際には必要な書類を集めるだけでも結構な時間と労力がかかったり、相続登記申請書に不備があって何度も法務局に足を運ぶ必要があったりと、簡単には登記手続きがすすまないケースも多いようです。
もしも、自分で相続登記申請書を作成してみて難しいと感じたら、早めに司法書士に相談するべきでしょう。
また、相続後に不動産や共有持分の売却を検討しているなら、最初から弁護士と連携した買取業者に相談するのもおすすめです。買取はもちろん、相続登記申請のアドバイスなど相続に関するあらゆる問題について総合的なサポートを受けられます。
相続登記についてよくある質問
相続登記とは、相続によって発生した不動産の権利変更を、法務局で申請する手続きです。相続登記をおこなうことで、不動産が相続人のものになったことを第三者に主張できます。
相続登記をしないと、登記簿上の名義は被相続人(亡くなった人)のままです。不動産の売却ができないほか、担保設定ができないなどの問題があります。また、共有不動産の場合、管理には共有者間の話し合いが必要ですが、亡くなった人の名義を残しておくことで話し合い自体ができなくなります。
自分でも申請可能です。基本的には、共有持分を引き継ぐ全員が申請します。代行してもらいたい場合は、登記の専門家である司法書士に相談しましょう。
まず、登録免許税として「課税標準額(共有持分の評価額)×4/1000」がかかります。他には、必要書類の取得費として数百~数千円、司法書士報酬として3万~5万円ほどの費用があります。
いいえ、相続登記申請書に決められた書式はありません。法務局のホームページなどでひな形を取得できますが、A4用紙に黒色のボールペンかパソコンを使用して作成し、必要事項を正しく記載すれば受理されます。