相続財産管理人とは、相続放棄などによって相続人がいない場合に、被相続人の遺産を管理・処分する人物のことです。
例えば、家や土地を相続放棄しても、その管理責任は相続人に残り続けるため、空き家や空き地を放置してしまうと、自治体から行政処分を受ける恐れがあります。
そうした場合、相続管理人を選任すれば、管理責任ごと不動産を手放せるので、自治体による行政処分を受ける心配がありません。
ただし、相続財産管理人の選任には手間や時間がかかるため、いますぐ不動産の管理責任を手放したい場合、いったん遺産相続をしてから不動産を売る方法をおすすめします。
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- 相続財産管理人とは、相続されない遺産の管理・処分をおこなう人物。
- 遺産を相続する人物がいない場合、相続財産管理人が必要となる。
- 相続財産管理人を選任するには、家庭裁判所に申立てをおこなう。
相続財産管理人とは?
「相続財産管理人」とは、遺産を相続する人物がいない場合に、被相続人の遺産を代理で管理・処分できる人物です。
相続人がいない場合、民法においても以下のように定義されています。
民法 第952条
前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。
まずは、相続財産管理人の概要について解説していきます。
相続されない遺産の管理・処分をおこなう人物
相続財産管理人は、以下のような行為をおこないます。
- 相続財産の調査・管理
- 相続財産の換価
- 債権者への支払い
- 特別縁故者への分与
- 国庫への帰属
遺産を管理する人物がいないと、ゴミ屋敷同然の空き家が放置されてしまったり、他人に迷惑を与える恐れがあります。
そのため、相続財産管理人を選任した場合のみ、被相続人の遺産を相続人以外が管理・処分することが例外的に認められているのです。
相続財産管理人が必要となるケース
相続財産管理人が必要となるケースは、主に以下の2パターンです。
- 相続人が1人もいない場合
- 相続人全員が相続放棄した場合
相続人が誰も遺産を相続しない場合、相続財産管理人が必要となります。
それぞれのケースを順番に見ていきましょう。
1.相続人が1人もいない場合
1つ目のケースは、遺産を引き継ぐ相続人が1人もいない場合です。
被相続人の親族が全員死亡している場合など、遺産相続できる権利が法的に認められている「法定相続人」が1人もいないケースを指します。
法定相続人が1人もいない場合、遺産を管理する人物がいない状態となってしまうため、相続財産管理人が必要になるのです。
法定相続人について詳しく知りたい人は、以下の記事もあわせて参考にしてみてください。
2.相続人全員が相続放棄した場合
2つ目のケースは、相続人全員が遺産を相続放棄した場合です。
法定相続人が存命でも、必ずしも遺産を相続したいと考えているとは限りません。
例えば、被相続人が多額の負債を抱えていた場合、返済義務から免れるために全員が相続放棄を選ぶケースは珍しくありません。
すると、相続人が1人もいない状態と同様に、遺産を管理する人物がいない状態となってしまうので、相続財産管理人が必要になります。
相続財産管理人を選任する方法
相続財産管理人を選任する方法には、大きく分けて2段階の手順があります。
- 必要書類・費用を準備する
- 家庭裁判所に申立書を提出する
必要書類・費用を準備した後、申立書と共に家庭裁判所へ提出しましょう。
それぞれの手順を順番に解説していきます。
【手順1】必要書類・費用を準備する
まずは、相続財産管理人の選任申立てに必要な書類・費用を準備しましょう。
必要書類は裁判所のホームページ・市区町村役場などで、各種書類を集めます。
必要な費用は郵便局で購入した切手・収入印紙で納めるので、事前に準備します。
必要書類と費用の種類について、それぞれ詳しく見ていきましょう。
相続財産管理人の選任に必要な書類
相続財産管理人の選任に必要な書類は、以下のとおりです。
- 相続財産管理人選任申立書
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
- 被相続人の両親の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
- 被相続人の祖父母などの死亡の記載のある戸籍謄本
- 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
- 財産管理人候補者の住民票又は戸籍附票
- 相続財産の目録
- 財産を証する資料
場合によっては、以下の書類が必要なケースもあります。
- 被相続人の子の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
(被相続人の子で死亡している人がいる場合) - 被相続人の兄弟姉妹の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
(被相続人の兄弟姉妹で死亡している方がある場合) - 被相続人の甥または姪の死亡の記載がある戸籍謄本
(被相続人の甥または姪が死亡している場合) - 利害関係を証する資料
(利害関係人からの申立ての場合)
「相続財産管理人選任申立書」は、裁判所のサイトから書式・記載例をダウンロードできます。
相続財産管理人の選任に必要な費用
相続財産管理人の選任に必要な費用は、以下4種類です。
種類 | 金額 |
---|---|
印紙代 | 800円 |
郵便切手代 | 2,000円程度 |
官報公告費用 | 3,775円 |
予納金 | 20~100万円程度 |
連絡用の郵便切手代は、裁判所によって異なりますが、およそ2,000円程度です。
収入印紙は郵便局で購入したものを、申立書に貼り付けて提出する形になります。
予納金の金額はケースによりますが、一般的に30〜100万円程度の費用が必要です。
【手順2】家庭裁判所に申立書を提出する
つづいて、申立書などの必要書類を家庭裁判所に提出しましょう。
提出先は、被相続人が最後に居住していた住所を管轄する家庭裁判所です。
管轄区域については、裁判所のホームページで確認できます。
相続財産管理人の選任申立てができる人物
相続財産管理人の選任申立ては誰でも手続きできる訳ではありません。
以下の人物なら、相続財産管理人の選任申立てが可能です。
- 相続人など利害関係人
- 検察官
利害関係人とは、相続が進まないことで利害関係が生じる、以下のような人物を指します。
- 債権回収ができない被相続人の債権者
- 被相続人と特別な縁故がある内縁の妻
- 遺言で指定された特定遺贈の受遺者
申立てから選任にかかる期間は6ヵ月以上
選任申立てをしても、すぐに相続財産管理人が決まる訳ではありません。
家庭裁判所による審理が実施されるため、不在者財産管理人の選任には、申立てから6ヵ月程度の時間がかかります。
また、財産の処分にも家庭裁判所の許可が必要になるため、実際に不動産が処分されるのは約6ヵ月後以降になります。
どうしても相続放棄したい場合は仕方ありませんが、いますぐ不動産を処分したい場合、遺産相続してから不動産だけを売却する方法もあるので、検討してみるとよいでしょう。
相続財産管理人を選任するメリット・デメリット
相続財産管理人を選任する場合、以下のメリット・デメリットがあります。
種類 | 具体例 |
---|---|
メリット | 相続放棄した不動産の管理責任を回避できる |
デメリット | 相続財産管理人となる人物を自由に決められない |
相続財産管理人に報酬を支払う必要がある | |
必要書類の準備に時間や手間がかかる |
この項目では、メリット・デメリットについて、順番に見ていきましょう。
相続財産管理人を選任するメリット
相続財産管理人を選任する場合、以下のメリットがあります。
- 相続放棄した不動産の管理責任を回避できる
相続放棄をおこなった場合、通常は相続人に残り続けてしまう不動産の管理責任を、相続財産管理人を移転させることで回避できます。
次の項目で、このメリットを詳しく解説していきます。
相続放棄した不動産の管理責任を回避できる
本来であれば、相続放棄をした後も不動産の管理責任は相続人に残り続けます。
そのため、相続放棄した家や土地が自治体から「特定空き家」に指定されると、行政処分や損害賠償請求を受けてしまう恐れもあるのです。
そうした場合、相続財産管理人を選任すれば、相続放棄した不動産の管理責任を回避できます。
相続財産管理人が不動産を管理・処分してくれるので、相続放棄後も安心して過ごせるメリットは大きいでしょう。
相続財産管理人を選任するデメリット
相続財産管理人を選任する場合、次のデメリットがあります。
- 相続財産管理人となる人物を自由に決められない
- 相続財産管理人に報酬を支払う必要がある
- 必要書類の準備に時間や手間がかかる
それぞれのデメリットを1つずつ見ていきましょう。
相続財産管理人となる人物を自由に決められない
残された遺産を公平に処分する必要があるため、相続財産管理人に選任される人物は家庭裁判所によって慎重に決定されます。
相続人が推薦した候補者が選ばれる場合もありますが、公平な第三者でありながら遺産の精算を得意とする、弁護士・司法書士などの専門職が選ばれるケースが多いです。
相続財産管理人となる人物を相続人側で自由に決定することはできず、不動産の処分に反対する人物が選ばれるケースもあるため注意しましょう。
そうした場合、他相続人の同意がなくても自由に売却できるので、自分の不動産を手放してしまうことをおすすめします。
相続財産管理人に報酬を支払う必要がある
相続財産管理人を選任する場合、報酬として数十万〜100万円程度の予納金が必要となる点を忘れてはいけません。
それだけでなく、相続放棄によって遺産を相続できないことは、被相続人が多額の負債を抱えていた場合でもない限り、金銭的なデメリットとなります。
もし、相続できる不動産の管理責任を問題視して相続放棄を検討している場合、一時的に共有持分を相続をしてから売却することをおすすめします。
不動産業者に売却すれば、不動産の管理責任を手放すことができるので、売却後は行政処分や損害賠償請求を気にせずに安心して過ごすことが可能です。
必要書類の準備に時間や手間がかかる
相続財産管理人を選任する場合、市区町村役場などに出向いて必要書類を集めなければならず、膨大な時間や手間がかかってしまいます。
必要書類の準備が面倒な場合、不動産を相続放棄せずに相続してから、不動産業者に売却することをおすすめします。
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不動産を相続放棄する場合は相続財産管理人を選任しよう
不動産を相続放棄する場合、管理責任を追及されないために、相続財産管理人を選任しましょう。
相続財産管理人を選任せずに相続放棄した場合、不動産の管理責任は相続人に残り続けるため、特定空き家に指定されると自治体から行政処分を受ける恐れもあります。
相続財産管理人を選任すれば、不動産を相続放棄しても管理責任を追及されることはないので、相続放棄後も安心して過ごすことが可能です。
ただし、相続財産管理人の選任には数十万円以上の費用がかかる上、必要書類の収集などの手続きに時間や手間がかかるといったデメリットもあります。
そうした場合、不動産を相続してから買取業者などに買い取ってもらうほうがスムーズな場合もあるので、無料査定を利用して不動産業者に相談してみるとよいでしょう。
相続財産管理人に関するよくある質問
相続財産管理人とは、相続放棄などによって相続人がいない場合に、被相続人の遺産を管理・処分する人物のことです。
相続財産管理人は、相続人が1人もいない場合・相続人全員が相続放棄した場合に必要です。
必要書類・費用を準備してから、申立書と共に家庭裁判所へ提出しましょう。
相続放棄した不動産の管理責任を回避できることです。
相続財産管理人となる人物を自由に決められないこと、相続財産管理人に報酬を支払う必要があること、必要書類の準備に時間や手間がかかることの3点です。