不動産などの経年劣化によって価値が下がっていく資産には「減価償却」という考え方があります。
減価償却によって、不動産売却時の譲渡所得税や事業用不動産として使う際の法人税などが大きく変わります。
共有持分の減価償却費は「共有不動産全体の減価償却費」が基準となるので、まずは基礎的な知識から把握しましょう。
不動産の減価償却について悩んだときは、専門家である税理士に相談しましょう。税理士なら、節税も含めた適切な税申告のアドバイスが可能です。
- 共有持分の減価償却は持分割合に応じて計算する。
- 確定申告は持分割合に応じて各共有者がそれぞれ申告する。
- 少額の事業用設備は一括で償却できる。
共有持分の減価償却は持分割合に応じて計算する
共有持分の減価償却は、各共有者の持分割合に応じて計算をおこないます。事業の会計事務や確定申告では、各共有者が自分の持分に対してのみ手続きをします。
最初に不動産全体の減価償却費を算出し、そこに持分割合をかけたものが共有持分の減価償却費です。
つまり、不動産における基本的な減価償却について理解しておけば、共有持分の減価償却についてもわかるようになります。
減価償却の対象となる資産を「減価償却資産」といい、分散された取得費用を「減価償却費」といいます。
ちなみに、土地には経年劣化がないので、減価償却資産には含まれません。不動産の減価償却では、建物とその付属設備のみを考えます。
事業用の不動産における減価償却費の計算方法
賃貸物件や店舗・事務所など、事業用に使われる不動産の減価償却費は、3つの計算方法があります。不動産をいつ取得したかによって、使用する計算方法が決まります。
- 平成19年度以降に取得した場合に使われる「定額法」
- 平成18年度までに取得した場合に使われる「旧定額法」
- 平成9年度までに取得した場合に使われていることがある「旧定率法」
また、取得とは名義変更があったときを指すので、相続があっても計算方法は引き継がない点に注意しましょう。
それぞれの計算方法について、具体例をあげて解説していきます。ただし、個々の事情や端数の取り扱いなどで数字は変動するので、計算例はあくまで目安として参考にしてください。
平成19年度以降に取得した場合に使われる「定額法」の計算方法
平成19年4月1日以降に取得した不動産は、定額法によって計算します。基本的な計算方法であり、特別な事情がない限りは法人も個人も定額法を使います。
定額法の償却率は、資産の耐用年数によって決まります。資産の耐用年数は、構造や用途などで細かく定められています。
鉄骨鉄筋コンクリート造の建物を5,000万円で購入した場合、減価償却費は「5,000万円×0.022=110万円」です。
減価償却資産が1円になるまで、1年ごとに110万円を経費として計上します。
上記の例から「(5,000万円-1円)÷110万円=約45年」と計算すれば、耐用年数とほぼ同じ年数で減価償却が終了するとわかります。
耐用年数については「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」の別表第1、償却率は別表第8で定められています。
参照:国税庁「定額法と定率法による減価償却(平成19年4月1日以後に取得する場合)」
参照:e-Govポータル「減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表第1、別表第8」
平成18年度までに取得した場合に使われる「旧定額法」の計算方法
平成18年度以前(平成19年3月31日まで)に取得した不動産は、法改正以前に使用されていた旧定額法によって計算します。
旧定額法の特徴は、減価償却を一旦、取得価額の90%までしかおこなわない点です。
上記の計算で償却を終えた次の年に、追加で5%を償却し、残りの5%は5年かけて1円まで償却します。
定額法も旧定額法も最終的に1円まで償却できるのですが、旧定額法では制度が複雑だったため、シンプルな方法に改正したという背景があります。
・5,000万円×0.9×0.022=99万円
・1年ごとに99万円を経費として計上し、4,000万円(資産の90%)まで償却
・上記の償却が終了した翌年に、500万円をまとめて経費に計上して償却
・さらに翌年から5年をかけて、残りの500万円が1円になるまで償却
旧定額法の償却率については「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」の別表第7で規定されており、耐用年数によっては現在の定額法と若干の違いがあります。
参照:国税庁「旧定額法と旧定率法による減価償却(平成19年3月31日以前に取得した場合)」
参照:e-Govポータル「減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表第1、別表第7」
平成9年度までに取得した場合に使われていることがある「旧定率法」の計算方法
定額法が基本的な計算方法ですが、平成10年度の法改正までは、企業は定額法(現在の旧定額法)と定率法(現在の旧定率法)を選択できました。
そのため、平成9年度以前(平成10年3月31日まで)に取得した不動産のなかには、旧定率法を継続して使用しているケースがあります。
旧定率法は、次のように計算します。
取得価額から、前年までの償却費を差し引く計算方法です。
・1年目は「5,000万円×0.048=240万円」
・2年目は「(5,000万円-240万円)×0.048=228万4,800円」
・3年目は「(5,000万円-240万円-228万4,800円)×0.048=217万5,130円」
上記を1円になるまで繰り返します。最初のほうは減価償却費が大きく、徐々に少なくなっていくのが旧定率法の特徴です。
旧定率法の償却率については、旧定額法と同じ「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」の別表第7で規定されています。
参照:国税庁「旧定額法と旧定率法による減価償却(平成19年3月31日以前に取得した場合)」
参照:e-Govポータル「減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表第1、別表第7」
マイホームなど事業用以外の不動産における減価償却費の計算方法
マイホームなど、事業用途には使わない不動産の場合、計算方法は次の1種類のみです。
経過年数は「所有している期間」を指し、築年数とは違うので注意しましょう。また、1年未満の端数は、6ヶ月以上は1年とし、6ヶ月未満は切り捨てます。
償却率は事業用不動産と同じく耐用年数によって決まりますが、耐用年数は事業用不動産の1.5倍となります。
取得価額が5,000万円なら「5,000万円×0.9×0.015×経過年数」となります。経過年数が1年なら67万5,000円、2年目は135万円、10年目で675万円となります。
また、償却可能な金額の上限は取得価額の95%までです。
非事業用の耐用年数を長くする(つまり、減価償却の終了まで期間を長くする)ことで、取得価額を減らしにくくしています。
なぜなら、譲渡所得税は「不動産の売却価格-償却後の取得価額」に対して課税されるため、取得価額が大きいほど税額を軽減できるからです。
事業用の場合は「一度に高額の経費を計上すると赤字になるが、ある程度の経費はあったほうが営業利益への課税を軽減できる」という事情があるため、一定額の償却がおこなわれます。
一方、非事業用の減価償却では、営業利益がないので経費を計上する必要もありません。むしろ、取得価額が多く残っているほうが、売却時に譲渡所得税を軽減できるのです。
共有持分の確定申告は持分割合に応じて申告する
「共有持分の減価償却は持分割合に応じて計算する」と解説しましたが、そうなると当然、確定申告も持分割合に応じて申告します。
共有者が各自で、自分の共有持分についてのみ確定申告をおこないます。
青色申告決算書では、減価償却費の計算における取得価額の項目に、共有持分の取得金額を記載します。
共有持分を売却する場合における確定申告の計算例
例えば「経過年数が10年、鉄骨鉄筋コンクリート造のマイホーム」という条件で、1/2の共有持分を売却するとしましょう。
確定申告をして譲渡所得税を納めるとき、次のように計算します。
これに「675万円(不動産全体の減価償却費)×1/2(持分割合)=337万5,000円」を差し引くと、共有持分の取得費は2162万5,000円となります。
「共有持分の売却価格-(2162万5,000円+売却費用)-特別控除」によって、課税対象である譲渡所得を算出できます。
上記の計算で算出できた譲渡所得に、所有期間に応じた税率をかけ合わせれば、譲渡所得税が算出できます。
- 長期譲渡所得の所得税税率・・・15%
- 短期譲渡所得の所得税税率・・・30%
確定申告時に「共有不動産全体の決算書」は不要
「確定申告時は、各共有者がそれぞれの共有持分についてのみ申告する」と解説しましたが、共有不動産全体の資料がなければ、記載されている内容が正確か判断できないように思えます。
「共有不動産全体の決算書なども提出しなければ、受理されないのでは?」と、不安に思う人も少なくありません。
しかし、共有持分の確定申告において、共有不動産全体の資料を提出する義務はありません。
むしろ、税務署の手続きが混乱する場合もあるので、基本的に共有不動産全体の決算書は提出しないようにしましょう。
共同で購入した少額の事業用設備は一括で償却して節税できる
共有名義で不動産を所有している場合、ポストや火災報知器など、少額の設備も共同出資して購入する場合があります。
じつは、償却資産であっても少額であれば、分散して償却せず、一括償却で経費にできる制度が2つあります。
また、2つの制度はどちらも金額の上限がありますが、共同で購入した設備の場合、持分割合に応じて計上可能です。
10万円以上20万円以下の設備は「一括償却資産」として経費にできる
取得価額が10万円以上20万円以下の設備は、一括償却資産として耐用年数に関わらず3年間で償却できます。
また、設備の数が多いほど、節税効果も増します。15万円の設備を10個購入し、すべて一括償却資産として処理すれば、1年ごとに50万円の経費計上が可能です。
10万円以上30万円未満の設備は「少額減価償却資産の特例」で経費にできる
少額減価償却資産の特例は、正式には「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」といいます。
一括償却資産とは別に、10万円以上30万円未満の設備に適用できます。こちらは3年間ではなく、取得した年にまとめて経費計上が可能です。
ただし、この特例はいくつかの制限があります。
- 一括償却資産で計上したものは適用できない
- 青色申告をしている中小企業者もしくは農業協同組合などが対象
- 従業員数が1,000人以下(令和2年度以降は500人以下)
他にも細かい決まりがあるので、国税庁のホームページで確認しましょう。
参照:国税庁「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」
設備の取得価額は持分割合に応じて計上できる
上記2つの制度は、それぞれ取得金額の上限があります。
しかし、設備の取得金額は持分割合に応じて計算できるため、上限を超える設備を購入したとしても、適用を受けられるケースがあります。
そのため、各共有者は自分の持分に対して「少額減価償却資産の特例」を適用可能となります。
減価償却の計算は税理士に相談しよう
共有持分の減価償却は、基本の「不動産全体の減価償却」を理解することが大切です。
しかし、不動産の取得した時期などによって、計算方法は複雑に変わります。
減価償却を正しく理解し、適切な手続きをできるかどうかで、課税額が大きく変化するケースもあります。適切に減価償却費を計算して、節税効果を高めるなら、税制の専門家である税理士に相談するとよいでしょう。
共有持分の減価償却についてよくある質問
経年劣化によって価値の下がっていく資産について、取得費用を価値がなくなるまでの期間で分散して必要経費に計上する手続きです。分散することで、経費が利益を上回って赤字になるのを防ぐといった効果があります。
共有不動産の減価償却費に、持分割合をかけ合わせて計算します。
「定額法」「旧定額法」「旧定率法」の3つがあり、不動産を取得した時期によって計算方法が異なります。内容も複雑なので、この記事の解説を参考にしつつ、税務署や税理士に相談してみましょう。
いいえ、必要ありません。自分の共有持分についてのみ、申告すれば大丈夫です。
少額の資産を一括で償却できる「一括償却資産」や「少額減価償却資産の特例」を活用しましょう。それぞれ取得価額の上限がありますが、共同で購入すれば持分割合に応じて計上できます。例えば、一括償却資産の上限は20万円ですが、2人で折半すれば40万円の資産まで対象にできます。