不動産を所有していると、賃借人の家賃滞納トラブルや、不法に占有されるトラブルが起こり得ます。
所有不動産を不法に利用されていたとしても、自分の勝手な判断で追い出すのではなく、法律にもとづいて退去させる必要があります。
不動産の居住者を法律にもとづいて退去させることを「明け渡し請求」といいます。
明け渡し請求は裁判所の手続きなどで法律知識が必須です。まずは弁護士に相談するとよいでしょう。
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- 明け渡し請求には「交渉による明け渡し請求」と「法律に基づいた明け渡し請求」がある。
- 法律に頼らず「自力救済」してしまうと不動産所有者が罰せられてしまう。
- 共有不動産が共有者に独占されている場合、共有者に対する明け渡し請求は認められない
- 明け渡し請求は権利関係や法律が複雑なため弁護士に依頼しよう。
明け渡し請求とは居住者を退去させるための請求のこと
明け渡し請求とは不動産の居住者を退去させるための請求のことです。
例えば、居住者が家賃を滞納している場合や、空き家を第三者に勝手に使用されている場合などに明け渡しを請求します。
なお、明け渡し請求は「不動産の所有権を持っていればできる」と法律によって定められています。
しかし、状況によっては裁判まで発展する場合もあるので、弁護士への相談も検討しておきましょう。
「交渉による明け渡し請求」と「法律に基づいた明け渡し請求」がある
明け渡し請求は「交渉による明け渡し請求」と「法律に基づいた明け渡し請求」に分けて考えられます。
交渉による明け渡し請求とは、居住者との交渉や話し合いによって明け渡しを請求することです。
しかし、交渉や話し合いだけだと、強制力や確実性に欠けてしまいます。
一方で、法律に基づいた明け渡し請求とは、法律によって強制的に退去させることです。
この方法だと、強制的に立ち退きさせられますが、訴訟を起こすために時間やお金がかかってしまいます。
法律に基づき強制的に明け渡し請求する場合「明け渡し訴訟」が必要
法律に基づいて、強制的に明け渡し請求する場合「明け渡し訴訟」を提起する必要があります。
明け渡し訴訟とは、強制的に立ち退きを実行させるための訴訟のことです。
後の項目で詳しく解説しますが、明け渡し訴訟の提起には多大な費用や時間がかかってしまいます。
ですので、まずは居住者と明け渡しの交渉をして、それでもなお立ち退きが実行されない場合は明け渡し訴訟を提起するというケースがほとんどです。
明け渡し請求の際「自力救済」は法律によって固く禁じられている
不動産所有者による明け渡し請求をおこなう際「自力救済」は法律によって固く禁じられています。
自力救済とは、権利を侵害された者が法に基づいた解決ではなく、実力行使での問題解決を謀ることです。
例えば、居住者が家賃を滞納されたから「鍵を変えて不動産に入れないようにした」「居住者の家財や電化製品を勝手に破棄した」などの対応が「自力救済」とみなされます。
「自力救済」とみなされる行為をしてしまうと、居住者ではなく不動産所有者が罰せられてしまいます。
ですので、不動産明け渡しを請求する場合は法律に基づいて解決しなくてなりません。
共有不動産が共有者に独占されていても原則明け渡し請求は認められない
共有不動産が共有者に独占されていても、明け渡し請求は原則認められません。
なぜなら、法律によって「各共有者は共有不動産の使用をできる」とされているからです。
また「不動産の共有持分を少しでも所有していれば不動産全体の使用ができる」とも考えられています。
これらの理由から、共有不動産が共有者に独占されていたとしても、明け渡し請求は原則認められません。
各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。
引用:e-gov法令検索 民法第249条
共有不動産の明け渡し請求が認められるケース
先程の項目では、共有不動産に対する明け渡し請求は、原則認められないことを説明しました。
しかし、共有不動産に対する明け渡し請求が認められるケースも稀にあります。
以下のリストのような状況であれば、共有不動産に対する明け渡し請求が認められる可能性があります。
- 実力行使で共有不動産を占有した
- 使用方法の協議を無視して独占している
- 他共有者の許可なしに、増築や工事をしている
明け渡し請求が認められる具体例
明け渡し請求が認められるためには、さまざまな条件があります。
例えば「今月分の家賃が支払われていない」という理由だけでは、明け渡し請求は原則認められません。
次の項目から、明け渡し請求が認められる具体例を解説します。
目安として3カ月以上家賃を滞納され続けている
目安として「3カ月以上」家賃を滞納され続けていることが、明け渡し請求が認められる条件の一つとなります。
不動産所有者によって賃貸契約を解除するには「信頼関係破壊の法理」というものが重要視されています。
信頼関係破壊の法理というのは「当事者間の信頼関係が破壊されない程度の違反であれば、賃貸借契約の解除を認めない」という法理のことです。
また、信頼関係破壊の法理には「◯カ月滞納していたら信頼関係が破壊されたとする。」などといった明確な条件は定められていません。
過去の裁判例では、1カ月の家賃滞納で契約解除を認められたケースもあれば、4カ月の家賃滞納があっても契約解除が認められなかったケースもあります。
ですので、目安として「3カ月以上」家賃の滞納があれば、明け渡し請求が認められる可能性があります。
無断で第三者に譲渡・貸与されている
不動産の所有者(貸主)の許可を取らず、不動産を又貸しすることを「無断転貸」といいます。
また、建物を借用して居住する権利(賃借権)そのものを第三者に譲渡することを、賃借権の「無断譲渡」といいます。
どちらの行為も法律で禁止されており、無断転貸や無断譲渡があった場合、不動産所有者は賃貸契約を解除できると定められています。
1 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
2 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。
引用:e-gov法令検索 民法第612条
権利を持たない第三者に不法占拠されている
不動産の権利を持たない第三者に不法占拠されている場合、明け渡し請求できます。
不法占拠とは、法律で認められた権利を持たない状況で、不動産を占有していることをいいます。
例えば、所有している空き家を無許可で第三者に使用されている場合、その空き家は不法占拠されているといえます。
なお、権利を持たない第三者や不法占拠者が相手でも「自力救済」による解決は認められません。
「家賃滞納されている場合」と「不法占拠されている場合」の明け渡し請求手順
前の項目では、明け渡し請求が認められるケースを説明しました。
そこで、明け渡し請求の方法を「家賃滞納されている場合」と「不法占拠されている場合」にわけて具体的に説明します。
家賃が滞納されている場合の明け渡し請求手順
この項目では、家賃の滞納により明け渡しを請求する場合の手順を紹介します。
あくまで、自力救済ではなく法律に基づいた手順で明け渡し請求する必要があります。
1.滞納賃料の督促、家賃支払い通知を送付する
「交渉や話し合いによる和解」のために、賃借人に対して滞納家賃の支払いを請求します。
支払い請求は家賃の督促状や、支払通知書によっておこないます。
なお、督促状や支払通知書には、賃貸契約解除の通知もあわせて記載できます。
2.内容証明郵便を利用し催告書を送付する
督促状や支払通知書の送付をしても退去・支払いに応じない場合「内容証明郵便」で催告書を送付します。
内容証明とは「いつ、いかなる内容の文書を誰から誰あてに差し出されたかということを、日本郵便が証明する制度」です。
後々に、裁判が発生した場合「催告書を送付した証明」が必要になるので、内容証明郵便を利用し催告書を送付する必要があります。
3.明け渡し訴訟を提起する
督促状や内容証明郵便を送付し交渉しても、相手が退去・支払いに応じない場合、明け渡し訴訟の提起をおこないます。
また、明け渡し訴訟を提起する際は「内容証明郵便」の記載内容に基づいて、賃貸契約を解除します。
なお、明け渡し訴訟では、建物の明け渡しの他に「滞納家賃の支払い」や「賃料相当の損害金」も請求できます。
4.強制執行する
訴訟による判決が確定しても、任意で明け渡しされない場合は「明け渡しの強制執行」が必要です。
明け渡しの強制執行とは、居住者を強制的に立ち退きさせる手続きのことです。
なお、強制執行する場合は改めて裁判所に申し立ておこなう必要があります。
第三者に不法占拠されている場合の請求手順
第三者に不動産の不法占拠をされていて、明け渡し請求する場合の手順を解説します。
不法占拠者には「不動産に対する権利」はありませんが、法的には「占有権」という権利を所有する「占有者」としてみなされます。
ですので、この場合も法律に基づいた手順通りに、明け渡し請求する必要があります。
1.相手方(不法占拠者)と交渉する
不法占拠されている場合は、すぐに明け渡し訴訟を提起できますが、訴訟の提起には時間や費用などコストがかかってしまいます。
そこで、不法占拠者に対して権利関係を説明し、任意で退去してもらうよう交渉します。
なお、相手が不法占拠者であったとしても「自力救済」による解決は認められませんので注意が必要です。
2.占有移転禁止の仮処分をおこなう
不法占拠者に対して交渉をおこなっても、立ち退きの意志がない場合は、明け渡し訴訟を提起する必要があります。
明け渡し訴訟をする前の手続きとして「占有移転禁止の仮処分」をおこなう必要があります。
なぜなら、明け渡し訴訟は「訴訟時点の占有者」に対してのみ、効力を持つからです。
このような不法占拠者同士による移転を防ぐために、占有移転禁止の仮処分をおこないます。
3.明け渡し訴訟を提起する
交渉をおこなっても、立ち退きの意志がない場合は明け渡し訴訟を提起します。
明け渡し訴訟をおこなう際は、占有移転禁止の仮処分を事前におこなうとよいでしょう。
また、不法占拠者に対する明け渡し訴訟では、不動産の明け渡し請求の他に「家賃相当額の損害賠償」を請求できるケースもあります。
4.強制執行する
明け渡し訴訟の判決によって、不法占拠者に対して立ち退きが命じられたにもかかわらず、不法占拠者が退去しない場合、明け渡しの強制執行を裁判に申し立てる必要があります。
申立が受諾されると、裁判所の執行官から催告がおこなわれ、強制的に明け渡しが実行されます。
明け渡し訴訟を提起する場合の必要書類
明け渡し請求の提起には必要な書類がいくつかあります。
この項目では、書類毎にわけて詳しく説明します。
参照:裁判所ウェブサイト「注意事項>訴状を提出するにあたって必要なもの」
訴状(申立書)
訴状(申立書)とは裁判を提起した人(原告)が、その主張や言い分を記載して裁判所に提出する書類のことです。
裁判所に提出するものが2部、原告の控えとして1部、合計3部必要です。
登記事項証明書
不動産の明け渡しを請求する場合「登記事項証明書」が必要です。
登記事項証明書とは、法務局が管理している不動産のデータのことです。
なお、登記事項証明書は、簡単なパソコン操作だけでインターネットから取得できますので、以下のリンクをご参照ください。
参照:法務局ホームページ「登記事項証明書等の請求にはオンラインでの手続が便利です」
固定資産税評価証明書
固定資産評価証明書とは、固定資産評価額を証明する書類で、不動産に対する課税額を計算するために必要です。
固定資産評価証明書は、最新年度のものが必要なので注意が必要です。
なお、固定資産評価証明書は、不動産所在地の市区町村役場で取得できます。
証拠書類のコピー
自身の主張や言い分を裏付けるために、証拠書類のコピーを用意しましょう。
以下のようなものが証拠書類として挙げられます。
- 建物賃貸借契約書
- 内容証明郵便
- 配達証明書
明け渡し請求の手続きは弁護士に相談・依頼しよう
明け渡し請求は不動産の所有者でもおこなえますが、手続きが困難であったり法律関係が複雑なため、弁護士に依頼するとよいでしょう。
弁護士に依頼すると依頼報酬はかかってしまいますが、法律に基づいて問題を解決に導いてくれます。
また、弁護士事務所によっては、居住者との交渉もおこなってくれる場合があります。
このような理由から、明け渡し請求は弁護士への相談・依頼をおすすめします。
弁護士費用の相場価格は30万円から90万円
弁護士費用の相場価格は「30万円から90万円」程度といわれています。
大幅な金額差がある理由は、家賃の滞納金額や事案の難易度、訴訟提起の有無などによって、必要金額が大きく変動するからです。
ですので、明け渡し請求を弁護士に相談する際は、弁護士報酬もたずねるとよいでしょう。
不動産の明け渡し請求は弁護士に依頼して問題を解決しよう
不動産を明け渡し請求したい場合、既になんらかのトラブルが発生しているでしょう。
そのような場合でも、自力救済はせずに法律に基づいた問題解決をすることが重要です。
また、実際に明け渡し請求する場合は、弁護士に相談・依頼するとよいでしょう。
弁護士に依頼すると、書類の発行手続きや明け渡し訴訟もサポートしてくれます。
明け渡し請求についてよくある質問
不動産の所有者(貸主)が、借主に不動産を明け渡すよう請求する手続きです。立ち退き請求ともいわれます。
いいえ、裁判所を通して正式な手続きをしなければ認められません。裁判所を通さず明け渡し請求をおこなうことを「自力救済」といい、貸主のほうが罰せられてしまいます。
個々の事例によって異なりますが、3カ月以上家賃を滞納され続けているケースや、無断で第三者に譲渡・貸与されているケース、権利を持たない第三者に不法占拠されているケースがあげられます。
まず、滞納賃料の督促や家賃支払い通知の送付をおこないます。その後、内容証明郵便を使って催告書を送付し、それでも家賃を支払わない場合に明け渡し訴訟を提起します。
いいえ、できません。共有者はだれでも「共有物を使用する権利」をもっているので、明け渡し請求をおこなえません、ただし、占有している共有者に対して、持分割合に応じた家賃を請求することはできます。