離婚や相続をきっかけにして、共有持分を持つことに不安を感じる人は多いですよね。
「トラブルに巻き込まれそう」や「さまざまな費用が掛かりそう」といった心配があると思います。
はじめに結論をいうと、共有持分を持つのであれば多少のリスクは避けられません。
しかし、適切な対処法さえ知っておけば、冷静に対応できリスクを抑えることができます。
この記事では、共有持分を持つことで起こりうるリスクをケース別に説明していきます。
その上で、それぞれのリスクへの対処法や、すべてのリスクを解消できる方法も解説します。

- 共有持分を持つことで生じる主なリスクは4つ。
- 共有持分を持つこと起こるリスクの具体例。
- 具体的な共有持分のリスク対処法。
- 共有持分のリスクは持分売却で解消できる。
共有持分を所有することで生じる4つのリスク
共有持分を所有するのであれば、少なからずリスクがあることは否めません。
そもそも複数人で1つの不動産を共有している状態である以上、他共有者とトラブルになるリスクを100%なくすことは難しいですよね。
・兄弟で相続した実家を売却するか否かで揉める
・夫婦で共同購入したマイホームに離婚後どちらが住むかで揉める
こうしたリスクが生じるのは「共有不動産」と「共有持分」にまつわる4つの法律に原因があります。
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【共有持分をもつリスクの原因になる4つの法律】
- 「共有者全員の同意がないと共有不動産を売却できない」という法律
- 「他共有者の許可がなくても共有不動産を使用できてしまう」という法律
- 「共有持分だけであれば勝手に売却できてしまう」という法律
- 「共有持分を持っているだけでも税金がかかってしまう」という法律
まずはじめに共有持分にまつわる法律と、どのようなリスクの原因になるのかを解説します。
①共有不動産を自由に売ったり貸したりできない
まず1つ目の原因として、共有不動産そのものを個人で自由に扱えないことが挙げられます。
共有している土地や物件といった共有不動産そのものは共有者全員の共有物です。
・共有不動産全体=Aさん・Bさん・Cさんの3人のもの
こうした共有物については「共有者全員の同意がないと売却できない」と民法で定められています。
また、共有物を貸す場合も「持分割合における過半数の同意が必要」とされています。
つまり共有持分を所有していても、共有不動産を自分の一存で売却したり賃貸借契約を結ぶことはできないのです。
そのため、以下のような「勝手に売却する」「勝手に売却される」というトラブルに発展するリスクを抱えています。
②他共有者が共有不動産を勝手に使用できてしまう
2つ目の原因としては、それぞれの共有者が共有不動産を自由に使用できてしまうことが挙げられます。
共有不動産を売ったり貸したりする場合とは異なり、使用するだけであればそれぞれの共有者が個人で自由に行えるのです。
民法でも、「それぞれの共有者は共有不動産を自由に使用できる」と認められています。
そのため、普通に住んだりする分には問題ないのですが「使用」という言葉を拡大解釈することで、本来認められていない行為までおこなわれてしまうリスクがあります。
③他共有者が共有持分を勝手に売却できてしまう
3つ目の原因として、共有者がそれぞれの共有持分を個人で勝手に処分できてしまうことが挙げられます。
共有不動産そのものとは異なり、共有持分はそれぞれの共有者が個人で所有しているものです。
このような個人の所有物は、「持ち主が自由に扱える」権利が民法で認められています。
それぞれの共有者は共有持分を自由に売却できるため、勝手に第三者の手に渡り、権利関係が複雑化してしまうリスクがあるのです。
④共有不動産にかかる経済的負担は避けられない
4つ目の原因として、共有不動産にかかる税金などを負担しなければならないことが挙げられます。
どんな不動産にも固定資産税と都市計画税という2種類の税金がかかるのですが、共有不動産も例外ではありません。
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【共有不動産にかかる2種類の税金】
- 固定資産税=不動産などの固定資産を所有している人が負担しなければいけない税金
- 都市計画税=不動産のある地域の道路や水道を整備するために負担しなければいけない税金
そして、民法では「共有不動産についての費用は共有者全員で負担する」ように決められています。
ですので、1人で不動産を所有する場合よりは少ないですが、税金による経済的負担があることには変わりません。
もし滞納した場合、不動産や財産を差し押さえられるリスクもあるため、どうしても共有不動産にかかる税金を支払いたくないのであれば、共有持分を手放すしかありません。
ケースごとの対処法を知ることで共有持分のリスクを抑えられる
共有持分の仕組みについて理解したところで、リスクの洗い出しをおこなっていきましょう。
皆さんが共有持分を持つことにリスクを感じる理由は、ざっくり言うと以下の2つではないでしょうか。
このようなリスクはあらかじめ対処法さえ知っておけば、解決が可能です。
ここでは共有持分を持つことで起こりうる、5つのリスクと解決法を解説します。
①共有不動産を売却したいのに売却できない
1つ目のリスクとして「共有不動産を売りたいときに売却できない」可能性があります。
先ほど説明したとおり、共有不動産の売却には共有者全員の同意が必要なので、他共有者が1人でも反対したら共有不動産を売却できません。
以下のように、自分1人が不動産を売却したいと思っても売却できないケースがあります。
【対処法】「共有物分割請求」で共有不動産を分けて売却
それぞれの共有者には「共有不動産を1人分ずつに分けてほしい」と請求する「共有物分割請求」の権利が法律で認められています。
民法第256条
1.各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
共有物分割請求をすれば、共有不動産をそれぞれの持分割合に応じた別の不動産として分けることが可能です。
この場合に共有物分割請求をすると、以下のような別々の不動産として分割することができます。
このように分割した後の不動産は共有者それぞれの所有物になるので、共有不動産全体では売却できませんが、分割した不動産であれば自由に売却できます。
ただし、分割後の不動産は面積も小さくなるため、価値が下がってしまう点に注意しましょう。
②他共有者によって共有不動産を分割されてしまう
こちらから共有物分割請求ができるということは、もちろん他共有者から請求することも可能です。
以下のような場合「共有不動産を分割したくないのに分割されてしまう」リスクがあります。
共有不動産は分割してしまうと価値が下がるため、将来的に売却を考えているのであれば避けたいリスクです。
【対処法】「共有物分割禁止特約」で共有不動産の分割を禁止する
共有不動産を分割されたくないのであれば「分割しない」という契約をあらかじめ交わしておきましょう。
「共有物分割分割禁止特約」を交わすことで、共有物の分割を法的に禁止することができます。
民法第256条
1.(中略)ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
2.前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五年を超えることができない
共有物分割禁止特約を交わすと、5年間は共有物の分割ができなくなり、再契約すればその後の5年間も分割を防ぐことが可能です。
ただし、共有物分割請求を他共有者から請求された後に共有物分割禁止特約を交わすことはできないので、前もって契約しておきましょう。
③他共有者のせいで共有不動産を使用できない
一部の共有者が共有不動産を占拠している場合「共有不動産を使用したいのに使用できない」リスクもあります。
先ほど説明した「それぞれの共有者は共有不動産を自由に使用できる」という法律を曲解して、下記のような不当利用をする共有者も少なくありません。
【対処法】「不当利得返還請求」で共有不動産の賃料を請求する
他共有者が共有不動産を占拠する場合、裁判所で「不当利得返還請求」をおこなうことで賃料として金銭を請求できます。
民法でも、本来あるべき自分の利得を還すよう請求できる「不当利得返還請求」が認められています。
この場合は「共有不動産を使用する権利」が本来あるべき利得なので、不当に占拠している人物を退去させたり金銭を請求することが可能です。
④共有不動産の税金滞納で差し押さえを受ける
他共有者が税金を滞納した場合「他共有者のせいで自分まで差し押さえを受ける」リスクがあります。
共有不動産についての税金は共有者全員に支払い義務があるため、1人が滞納すると連帯責任によって全員の財産が差し押さえの対象となるのです。
【対処法】「代表者変更届」で納税義務を移す
他共有者が滞納するのであれば、誰かが税金を肩代わりするほかありませんが、共有不動産についての税金は各共有者にそれぞれ請求されるのではなく、代表者1名にまとめて請求されます。
もしも代表者が滞納をしてしまうのなら、市区町村役場に「代表者変更届」を提出することで代表者を変更できます。
代表者にする人物は共有者側で選ぶことができるので、滞納の心配がない信頼できる人物を選ぶとよいでしょう。
【対処法】差し押さえられた持分は競売で買い戻す
既に持分や財産を差し押さえられてしまった場合は、自ら競売に参加して買い戻すことも可能です。
他共有者の持分が競売にかけられていたとしても、買い戻すことで第三者の手に渡ることを阻止できます。
ただし、確実に落札できるとは限らないため、差し押さえが起こる前に滞納を防ぐことが先決です。
⑤他共有者から第三者へと共有持分が渡る
他共有者の持分が第三者へ渡ることで「知らないうちに見ず知らずの人と共有関係になってしまう」リスクもあります。
持分だけであれば、個人で自由に売却や譲渡ができるので、以下のように第三者へ渡るケースがあります。
【対処法】第三者から共有持分を買い取る
それぞれの共有者には持分を自由に扱う権利があるので、他共有者が持分を手放すことは阻止できません。
ですので、他共有者から第三者へ渡った持分を自ら買い取る必要があります。
ただし、第三者が買取に応じてくれるとは限らないため、確実な方法とはいえません。
とくに不動産業者に渡ってしまうと、相場より高い価格での買取を求められることも少なくないです。
リスクを回避するためには共有持分を売却しよう!
共有持分を所有することのリスクと解決策を解説しましたが、いずれも確実とはいえなかったり、裁判所や市区町村役場などの手続きが必要になるため、手間のかかる方法ばかりでした。
しかし、ここまで紹介してきたリスクは、共有持分を手放すことで解消できます。
共有持分を手放す方法としては、以下の3パターンがあります。
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【共有持分を手放す3パターンの方法】
- 相手を指定せずに共有持分を手放す「放棄」
- 相手を指定して共有持分を譲り渡す「贈与」
- 相手を指定して共有持分を売り渡す「売却」
とはいえ、せっかくの共有持分を無償で手放すのは勿体ないですよね。
共有持分を売却する方法であれば、リスクを解消できる上にまとまったお金も得ることができます。
他共有者との共有関係を解消でき共有者同士のトラブルを避けられる
共有持分を売却することで、他共有者との共有関係が解消されます。
そのため、以下のように既にトラブルに発展してしまっている場合でも解決できます。
売却によって買主に共有持分の権利が移るので、共有持分に関する他共有者とのトラブルに関与する必要がなくなります。
納税義務がなくなることで経済的負担を解消できる
共有持分を売却することで、共有不動産についての納税義務もなくなります。
以下のように税金が負担になっている場合はとくに、共有持分を手放すことがおすすめです。
経済的負担が軽くなるだけでなく、滞納による差し押さえを受けるリスクも解消できます。
自分の持分だけを売却でき、他共有者の同意なく資金を得ることができる
共有持分を売却する場合、共有関係や納税義務を解消できるだけでなく、お金が入るというメリットもあります。
また、他共有者の同意がなくても自分の持分だけを売却できるので、離婚等において共有者のどちらかが一方的に金銭的な損をすることはありません。
そして、まとまったお金が入ることで、以下のようにさまざまな用途の資金に充てることが可能です。
ローン残債が残っていても共有持分は売却できるので、完済できれば返済義務も解消できます。
ただし共有持分に抵当権が設定されている場合は売却が困難なケースが多いですので、買取を依頼する際に相談してみましょう。
共有持分のリスクを100%抑えることは難しいので事後対応が大切
共有持分を持つのであれば多少のリスクが伴いますが、対処法さえ知っておけば対応可能です。
また、どうしてもリスクを解消したいのであれば、共有持分そのものを売却することで解決できます。
ただし、一般的な不動産業者では共有持分を買取拒否されたり、安値で買い叩かれることも少なくありません。
確実に高値で売却したいのであれば、共有持分を専門に扱う買取業者へ相談するとよいでしょう。