不動産を売却したときには「印紙税・登録免許税・譲渡所得税・住民税」が課せられます。
印紙税や登録免許税の税額は、法律によって明確に定められていますが、譲渡所得税や住民税は納める金額を自分で算出しなければなりません。
税額が下がる控除の特例もあるので、上手く活用しつつ不動産売却にかかる費用を軽減しましょう。
税額の計算や特例の利用についてわからないことがあれば、最寄りの税務署や税理士に相談することをおすすめします。
また、弁護士や税理士と連携している不動産業者なら、税金に関することも的確なアドバイスができるので、ぜひ相談してみましょう。
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- 不動産売却にかかる税金は「印紙税・登録免許税・譲渡所得税・住民税」の4つ。
- 譲渡所得税と住民税は利益が出たときのみかかる。
- 不動産売却時に利用できる5つの特例で節税できる。
不動産売却にかかる税金は4種類
不動産を売却したときには、以下4種類の税金が課せられます。
- 印紙税
- 登録免許税
- 譲渡所得税
- 住民税
印紙税や登録免許税は、不動産売却時には必ず課せられます。
一方で、譲渡所得税と住民税は利益がでたときのみ、課税されます。
次の項目から、それぞれの税金を詳しく見ていきましょう。
印紙税
不動産売却時には「不動産売買契約書」を作成するのが原則です。
そして、不動産売買契約書には、印紙を貼る必要があり、それによって印紙税を納税します。これが印紙税です。
印紙税の額は不動産の売買価格によって異なります。
そして、印紙税が10万円を超える場合は、2022年3月31日まで軽減措置(軽減税率)が適用されます。
以下のリストが、契約金額ごとにおける印紙税の税率です。
契約金額 | 本則税率 | 軽減税率 |
---|---|---|
50万~100万円以下 | 1,000円 | 500円 |
100万~500万円以下 | 2,000円 | 1,000円 |
500万~1,000万円以下 | 10,000円 | 5,000円 |
1,000万~5,000万円以下 | 20,000円 | 10,000円 |
5,000万~1億円以下 | 60,000円 | 30,000円 |
1億円~5億円以下 | 100,000円 | 60,000円 |
登録免許税
不動産の売却にあたって、不動産の名義を変更する必要があります。
そして、不動産における名義変更の手続きを「登記」といいます。
不動産を売却する際におこなう登記は、主に以下の2種類です。
- 所有権移転登記
- 抵当権抹消登記(ローンが残っている場合のみ)
所有権移転登記とは、不動産の所有者を売主から買主へと移行するための手続きです。
登記費用は売主の負担になることが一般的です。
また、住宅ローンが残っている物件を売却する際は、抵当権抹消登記が必要になります。
これらの登記については、以下の記事で詳しく解説しているので、参考にしてみてください。
不動産の登記申請とは?登記申請が必要なタイミングや状況別の登記種類を解説します譲渡所得税
譲渡所得税とは、不動産売却によって生じた利益に対して課せられる税金です。
つまり、不動産売却によって「利益」がでたときしか課せられません。
譲渡所得税は、事業所得や給与所得とは分けて確定申告が必要なため「分離課税」とも呼ばれています。
譲渡所得税の詳しい計算方法は、後の項目で解説します。
住民税
不動産売却によって利益が出た場合、その利益を譲渡所得として住民税(地方税)が課せられます。
譲渡所得税と同じで、住民税も利益がでたときのみ課税されます。
住民税も、譲渡所得税を求める際に利用する「課税譲渡所得」で計算可能です。
不動産売却時において税金以外にかかるお金
ここまで、不動産売却にかかる税金を説明してきました。
しかし、不動産売却時には税金以外にもかかるお金があります。
不動産売却時において、税金以外にかかる主な費用を確認していきましょう。
→不動産売却を、不動産会社に依頼した場合に仲介手数料が課せられます。
仲介手数料に発生する消費税
→仲介手数料には、消費税もかかります。
司法書士への報酬
→登記の手続きを、司法書士に依頼した際にかかります。
このように、税金以外にも不動産売却にかかる費用はあるので、覚えておきましょう。
不動産売却にかかる費用を徹底解説!費用を抑える方法を3つ紹介します不動産売却における譲渡所得税・住民税の計算方法
不動産を売却したときは、確定申告のために税金を計算する必要があります。
そして、譲渡所得税・住民税は以下の流れで計算します。
- 課税譲渡所得を算出する
- 課税譲渡所得に税率をかけて税額を算出する
また、これまでも説明した通り、譲渡所得税・住民税は利益が出た際のみ、必要になります。
次の項目から、不動産売却における譲渡所得税・住民税の計算方法を見ていきましょう。
1.課税譲渡所得を算出する
税金を計算する際は、まず課税譲渡所得を算出する必要があります。
課税譲渡所得の計算額は以下の通りです。
収入金額とは、不動産の売却価格を指します。
そして、取得費は、売却した不動産を取得するためにかかった費用です。「購入価格-減価償却費」で算出できます。
また、不動産の経年劣化に応じて、取得費も低下させる必要があります。
区分 | 償却率 |
---|---|
木造 | 0.031 |
木骨モルタル | 0.034 |
(鉄骨)鉄筋コンクリート | 0.015 |
軽量鉄骨造のうち骨格材の肉厚が3mm以下 | 0.036 |
軽量鉄骨造のうち骨格材の肉厚が3mm超4mm以下 | 0.025 |
譲渡費用は、不動産を売却するためにかかった費用です。
ちなみに、一定の要件を満たしている場合には、特例として特別控除を受けられる場合があります。
これらの情報をもとに、計算して出た価額が「課税譲渡所得」になります。
2.課税譲渡所得に税率をかけて税額を算出する
課税譲渡所得に税率を掛けて、実際に支払う税額を計算します。
税率は、共有持分を保有していた期間によって異なることに注意しましょう。
売却年の1月1日時点で「5年以下」の保有だった場合「短期譲渡所得」となります。
一方で、5年の保有を超えている場合は「長期譲渡所得」です。
短期譲渡所得と長期譲渡所得には、それぞれ以下のように税率が決められています。
区分 | 所得税 | 住民税 |
---|---|---|
短期譲渡所得 | 30% | 9% |
長期譲渡所得 | 15% | 5% |
【具体例】15年所有した不動産を売却したときの税額計算
ここまでの解説をもとに、具体例をつかって税額をシミュレーションしてみましょう。
条件は下記のとおりです。
- 所有期間は10年
- 売却価格は2,000万円
- 取得費は1,000万円(減価償却費相当額は控除済み)
- 譲渡費用は60万円
- 特別控除の適用はなし
まずは、課税譲渡所得を計算します。
所有期間10年は「長期譲渡所得」となるため、適用される税率と課税額は、以下のとおりです。
- 所得税:940万円 × 15% = 141万円
- 住民税:940万円 × 5% = 47万円
したがって、合計188万円が納税額ということです。
不動産売却時にかかる税金を軽減できる特例
ここまで、不動産売却にかかる税金や費用を見てきました。
次に、不動産売却時にかかる税金を軽減できる特例を紹介します。
- 3,000万円特別控除の特例
- 10年超所有家減税率の特例
- 特定居住用財産の買換え特例
- マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
- 特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
それでは、1つずつ説明します。
3,000万円特別控除の特例
マイホームを売却した際は「3,000万円特別控除の特例」を適用できます。
不動産の所有期間に関係なく、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できます。
つまり、売却益が3,000万円以内であれば譲渡所得税はかかりません。確定申告も不要です。
なお、対象となるのは「マイホーム」のみです。別荘といった「趣味・娯楽・保養」を目的として所有していた不動産は適用されません。
10年超所有家減税率の特例
売却するマイホームが所有期間10年を超える場合は「10年超所有家減税率の特例」を受けられます。
長期譲渡所得における軽減税率を、通常よりも低い税率で計算できます。
「3,000万円特別控除の特例」と重ねて受けられますが、他の特例を受けていないことが条件です。
特例が適用された際の軽減税率は下表のとおりです。
課税長期譲渡所得金額(A) | 税額 |
---|---|
6,000万円以下 | A × 10% |
6,000万円超 | (A - 6,000万円) × 15% + 600万円 |
例えば、課税長期譲渡所得金額が8,000万円だった場合、税額は900万円になります。
通常の税率だった場合には1,200万円ですので、300万円の節税ができます。
特定居住用財産の買換え特例
特定居住用財産と認められる不動産を売却し、代わりのマイホームに買い換えた際は「特定の居住用財産の買換えの特例」を受けられます。
譲渡所得に対する課税を将来に繰り延べられる特例です。
この特例を受けるには「売却した人の居住期間が10年以上」「売却年の1月1日における所有期間が10年を超えている」ことが必要です。
このとき、通常であれば4,000万円が課税対象です。
特例の適用を受けることで、課税対象を「買い換えたマイホームを売却した際」まで、繰り延べられます。
そのため、買い換えたマイホームを8,000万円で売却した際には、1,000万円ではなく4,000万円を足した5,000万円が課税対象となります。
マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
マイホームを売却して買い換えたとき、譲渡損失が生じていれば損益通算できます。※2021年12月31日まで有効な特例です。
不動産売却による損益は、給与所得や事業所得といった他の所得とは通算できないのが通常です。
しかし、この特例の適用を受ければ損益通算できるようになります。
また、損益通算しても損失分を控除できなかった際は、翌年以後・3年以内に繰り越して控除できます。
例えば、マイホームの売却で1,000万円の損失が発生した場合に、給与所得が500万円であれば、2年に渡って控除でき所得税の還付を受けられます。
適用を受けるには、売却した年の1月1日における所有期間が5年を超えていることが必要です。
参照:マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき(マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)(国税庁)
特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
住宅ローンが残っている不動産を売った時、住宅ローン残高を下回る価格で取引された場合に利用できる特例です。※2021年12月31日まで有効な特例です。
不動産売却によって出た損失を、その年における他の所得から控除できます。
「マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」と同様に、損失を控除しきれなかった場合には、売却した年の翌年以後・3年以内まで繰り越して控除できます。
・売却価格が2,000万円
・損失が4,000万円
・住宅ローン残高が3,000万円
のとき、損益通算の限度額は「3,000万円 - 2,000万円 = 1,000万円」です。
損失額が大きい場合、必ずしも全額を損益通算できるとは限らないので注意してください。
参照:住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき(特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)
特例を利用するには確定申告が必要
ここまで、不動産の売却時に利用できる特例を紹介しました。
しかし、特例を利用するには、必ず確定申告をする必要があります。
確定申告について、詳しくは以下の記事を参考にしてみてください。
共有持分を売却したら確定申告は必要?税金の計算方法や申告の流れを解説します不動産売却にかかる税金は4種類!控除を受けて節約しよう
不動産を売却したときには「印紙税・登録免許税・譲渡所得税・住民税」が課せられます。
そのうち「印紙税・登録免許税」は必ず発生しますが「譲渡所得税・住民税」は利益が出たときのみ発生することを覚えておきましょう。
印紙税や登録免許税の税額は、法律によって明確に定められています。
一方で、譲渡所得税・住民税は納める金額を自分で算出しなければなりません。
なお、不動産売却にかかる費用を軽減したいなら、利用できる特例を活用することが大切です。
税額の計算や特例の利用についてわからないことがあれば、最寄りの税務署や税理士に相談することをおすすめします。
不動産売却にかかる費用についてよくある質問
不動産売却時にかかる税金は「印紙税・登録免許税・譲渡所得税・住民税」の4つです。
印紙税や登録免許税は、不動産売却時には必ず課せられます。一方で、譲渡所得税と住民税は利益がでたときのみ、課税されます。
「仲介手数料」「仲介手数料に発生する消費税」「司法書士への報酬」といった費用も必要になるケースがあります。
「課税譲渡所得を算出する」「課税譲渡所得に税率をかけて税額を算出する」といった流れで計算できます。もしも、計算が面倒だったり手間に感じる場合は、税務署や税理士に相談することをおすすめします。
「3,000万円特別控除の特例」「10年超所有家減税率の特例」「特定居住用財産の買換え特例」「マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」といった5つの特例を適用することで、納税額を抑えられます。