共有名義不動産の建て替えや取り壊しは、単独名義不動産とは勝手が異なります。
共有者の同意が必要であったり、負担する費用によって持分割合が変わる可能性があるなど、共有名義不動産に特有の事情を知っておかなければいけません。
共有名義不動産の建て替え・取り壊しは、必ず事前に共有者全員で話し合いましょう。
しかし、話し合いが困難な場合や、全員の同意が得られない場合は、倒壊などの事故が起こる前に共有名義から抜け出しておくのも1つの方法です。
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- 共有名義不動産の建て替え・取り壊しには共有者全員の同意が必要
- 共有名義不動産の建て替え・取り壊し費用は持分割合に応じて共有者全員で負担するのが基本
- 共有者全員の同意が得られない場合、共有名義不動産の建て替え・取り壊しには「持分買取」または「共有物分割請求」が必要
共有名義不動産は勝手に建て替え・取り壊してOK?
まずは共有名義不動産の建て替え・取り壊しの可否について確認しましょう。
「建て替え」とは、住宅の基礎部分からすべて取り壊して、一度更地にしてから住宅をゼロから建築することをいいます。
「取り壊し」とは、新しく家屋などを建て替えたり、別の用途として使用するために、既存の建物を解体することを指します。
単独名義不動産であれば、所有者は1人なので自由に建て替え・取り壊し可能です。
しかし、共有名義不動産では、実際に住んでいる住人とは別に不動産の権利である「共有持分」のみを所有している「共有者」が存在します。
こうした共有名義不動産の建て替え・取り壊しをおこなう場合、他共有者の同意が必要なのでしょうか。
共有名義不動産は共有者全員の同意があれば建て替え・取り壊しできる
結論からいうと、共有名義不動産の建て替え・取り壊しには共有者全員の同意が必要です。
例えば、3人で共有している建物を、1人が勝手に取り壊してしまったら、他の2人の共有者は困りますよね。
ですので、共有者全員の同意がない限り、共有名義不動産は建て替え・取り壊しができないと民法で定められています。
民法第251条
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。
次の項目では、民法でいう「変更行為」の定義についてくわしく見ていきましょう。
建て替え・取り壊しは「共有物の変更行為」
共有名義不動産を建て替え・取り壊しすることは、法律上での「変更行為」に該当します。
法律上、それぞれの共有者が共有名義不動産に対しておこなえる行為は次の3種類に分けられます。
名称 | 具体例 | 必要条件 |
---|---|---|
保存行為 | 共有物の修理 不法占拠者への明け渡し請求など |
各共有者が自由に実行可能 |
管理行為 | 共有物を貸すことなど | 過半数の持分があれば実行可能 |
変更行為 | 共有物の増改築 共有物の売却など |
共有者全員の同意があれば実行可能 |
「共有物の変更行為」とは、共有名義不動産の形や性質を変更することで、建物の取り壊し・建て替えも該当します。
勝手に建て替え・取り壊しすると損害賠償を請求される
次のような場合でも、決して共有名義不動産を勝手に建て替え・取り壊してはいけません。
- 「共有名義不動産には自分しか住んでいないので、勝手に建て替えても大丈夫?」
- 「一部の共有者が音信不通なので、同意がないけれど建物を取り壊したい・・・」
共有者全員の同意がない場合、共有名義不動産の建て替え・取り壊しをおこなうと、他共有者から損害賠償を請求されてしまう恐れがあります。
損害賠償請求の裁判に発展すると、手間や費用がかかるだけでなく、他共有者との関係も悪化してしまいます。
共有名義不動産を勝手に取り壊したことで、仲の良かった兄弟が絶縁してしまった話もあるほどです。
こうしたトラブルを避けるためにも、共有名義不動産の建て替え・取り壊しをおこなう際は必ず共有者全員の許可を取りましょう。
倒壊の危険がある場合のみ他共有者の同意なく取り壊し可能
老朽化した建物が倒壊してしまうと、近隣住民にも迷惑をかけてしまいます。
そのため例外として、建物が倒壊する危険がある場合のみ、他共有者の同意がなくても共有名義不動産を取り壊しできます。
なぜなら、建物の倒壊を防ぐための解体は「保存行為」であると判断されるからです。
民法第252条
共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
とはいえ、他共有者へ連絡せずに共有名義不動産を取り壊すと、トラブルに発展する恐れもあるので、事前に一報を入れておくとよいでしょう。
住宅ローン返済中の場合も金融機関の許可があれば建て替え・取り壊しできる
住宅ローンを払い終えている場合、共有者全員の同意さえあれば、共有名義不動産を建て替え・取り壊しできます。
しかし住宅ローン返済中の場合、共有名義不動産の建て替え・取り壊しには、金融機関の許可も得なければなりません。
住宅ローンを受ける際、金融機関は建物へ抵当権などの担保権を設定しているはずです。
担保権が設定されている建物を許可なく取り壊してしまうと、担保目的物を毀損したとして、住宅ローンの契約違反となってしまうのです。
住宅ローン返済中に共有名義不動産を建て替え・取り壊しする場合、事前に住宅ローンの債権者である金融機関へ書類を提出して、了承を得てからおこないましょう。
住宅ローン残債の一括返済を求められるケースが多い
住宅ローン返済中に金融機関の許可なく建物を取り壊してしまうと、契約違反となりローン残材の一括返済を求められる恐れがあります。
なぜなら、共有名義不動産すなわち担保物を損傷させてしまうと、ローン返済を待ってもらえる権利である「期限の利益」を喪失してしまうからです。
民法第137条
次に掲げる場合には、債務者は、期限の利益を主張することができない。
1 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。
2 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。
3 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。
金融機関が無条件で共有名義不動産の建て替え・取り壊しを認めることは少ないため、基本的には住宅ローン残債を一括返済しなければなりません。
住宅ローンの一括返済がむずかしい場合、別の金融機関を見つけて、建て替え・取り壊しに必要な費用に加えて、既存の住宅ローンの返済分の融資を受けましょう。
建物を解体した後の「建物滅失登記」は共有者が単独でできる
建物の取り壊し後には「建物滅失登記」を法務局へ申請しなければなりません。
「建物滅失登記」とは、建物がなくなったことを法務局の登記簿へ登記することで、取り壊し後1ヶ月以内に手続きしなければならないと定められており、これを怠ると次のデメリットが生じてしまいます。
- 土地を売却できない
- 解体した建物にも固定資産税がかかり続ける
- 建築許可が下りない以上、建て替えができない
- 10万円以下の過料に処される場合がある
具体的には、次のような手順で「建物滅失登記」を申請します。
- 法務局において「登記簿謄本」「建物滅失登記の申請書」を取得する
- 「取り壊し証明書」「解体工事会社の印鑑証明」「解体工事会社の登記簿謄本」を解体工事会社から受け取る
- 1〜2の書類を法務局に提出する
- 書類提出後、1週間程度で登記完了証が発行される
この建物滅失登記については、共有名義不動産の場合でも共有者が単独でおこなえます。
建物滅失登記は「共有物の保存行為」
建物滅失登記は共有者が単独でおこなえるため、共有名義不動産も共有者が自由に建て替え・取り壊しできると誤解されている方も少なくありません。
しかし、建物を建て替え・取り壊すという行為と、建物を解体した後におこなう法務局での登記とは別です。
建物を建て替え・取り壊すことは、民法上の「変更行為」と扱われるため、共有者全員の同意が必要です。
一方、建物滅失登記の申請は他の共有者にとって不利益があるわけではなく、義務を果たしただけなので、民法上の「保存行為」にあたります。
そのため、共有名義不動産を取り壊した後の建物滅失登記は他共有者の同意がなくても単独で申請できるのです。
共有名義不動産を建て替え・取り壊しする手順
つづいて、実際に共有名義不動産を建て替え・取り壊しする方法を見ていきましょう。
共有名義不動産を建て替え・取り壊しする手順は、3つのステップに分けられます。
- 共有者全員から建て替え・取り壊しの同意を得る
- 共有名義不動産を取り壊して更地にする
- 更地に新しく共有名義不動産を建て替える
まずは共有者全員に「共有名義不動産を建て替え・取り壊しをしたい」旨を伝えて、全員から同意をとります。
そして共有名義不動産を取り壊した後、必要があれば新しい建物を建て替えるという流れです。
3つの手順について、1つずつ詳しく見ていきましょう。
1.共有者全員から建て替え・取り壊しの同意を得る
まずは共有者全員に「共有名義不動産を建て替え・取り壊しをしたい」旨を伝えて、全員から同意をもらいましょう。
共有者全員の同意を取らずに建物を取り壊してしまうと、後から「どうして勝手に壊したんだ」というクレームを付けられて訴訟に発展する恐れもあります。
とはいえ、必ずしも共有者全員が共有名義不動産の建て替えに同意するとは限りません。
また、次のような事情で「建て替え・取り壊しの同意をもらいたいけれど、他共有者と連絡がつかない」というケースもあります。
- 「共有者が亡くなっていて、誰に同意をもらえばよいかわからない・・・」
- 「共有者へ連絡しても、音信不通で同意がもらえない・・・」
こうしたケースでも、相続人や不在者財産管理人から同意を得ることで共有名義不動産を建て替え・取り壊し可能です。
それぞれのケースと対処法についてご紹介します。
共有者が故人の場合は「相続人」から同意を得る
共有者が亡くなった場合、共有持分が相続されて、その相続人が共有者となります。
ですので、亡くなった共有者の持分を相続した相続人へ連絡して、共有名義不動産の建て替え・取り壊しへの同意をもらいましょう。
正しく相続されていれば、登記簿上の共有者の氏名・住所が亡くなった共有者から相続人へ変更されているはずです。
もし亡くなった共有者の相続人がわからない場合、共有名義不動産の登記簿を確認しましょう。
また被相続人が亡くなったばかりで不動産の相続を済ませていない場合、建物の取り壊しには名義人の許可がいるため、取り壊し前に不動産の相続を済ませておきましょう。
共有者が音信不通の場合は「不在者財産管理人」から同意を得る
もしも共有者が行方不明で連絡が取れない場合でも「不在者財産管理人」を選任することで、連絡の取れない共有者の代わりに同意を得ることができます。
不在者財産管理人とは、行方不明である不在者の財産について、家庭裁判所の許可を得た上で管理・保存できる権利をもつ人物のことです。
民法第25条
従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。
不在者財産管理人は一部の共有者が有利にならないため、原則として共有名義不動産に利害関係のない第三者が選任されます。
もし不在者の親族が適任でない場合、家庭裁判所が選任した弁護士や司法書士などの専門家が不在者財産管理人となります。
不在者財産管理人の選任を申し立てるには、以下の書類を家庭裁判所に提出しましょう。
- 申立書
- 不在者の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 不在者の戸籍附票
- 財産管理人候補者の住民票または戸籍附票
- 不在の事実を証する資料
- 不在者の財産に関する資料(不動産登記事項証明書・預貯金及び有価証券の残高がわかる書類など)
- 申立人の利害関係を証する資料(戸籍謄本・賃貸借契約書写し・金銭消費貸借契約書写しなど)
選任された不在者財産管理人へ連絡して、同意が得られれば共有名義不動産を建て替え・取り壊し可能です。
不在者財産管理人の選任方法を詳しく知りたい人は、以下の記事をご覧ください。
不在者財産管理人とは?仕事内容や選任方法をわかりやすく解説2.共有名義不動産を取り壊して更地にする
共有者全員の同意を得た後、実際に共有名義不動産を取り壊して更地にします。
建物を取り壊すときは、解体業の免許をもつ解体業者へ依頼しなければなりません。
しかし悪質な解体業者へ依頼すると、次のようなトラブルに巻き込まれる恐れもあります。
- 追加工事が多く、最終的に見積もりより高額な費用を請求される
- 解体で出た廃棄物を処理せず、現場にゴミが散乱している
- 契約書や産業廃棄物管理票などの必要書類を提示しない
- 近所への挨拶もなく、クレームへの対応が横柄
- 解体工事による損害を補償する保険がない
- 産業廃棄物処理場ではない場所に不法投棄をする
こうしたトラブルに巻き込まれないためにも、建物の取り壊しを依頼する際は、次の点を意識して解体業者を選ぶとよいでしょう。
- 口頭だけではなく、きちんとした書面で契約をおこなう
- 2~3社に解体工事の見積りをもらい比較検討する
3.更地に新しく共有名義不動産を建て替える
共有名義不動産を取り壊して更地にした後、必要であれば更地に新しい建物を建て替えます。
共有名義不動産を建て替える際は、建設業の許可をもらっている建設業者へ依頼して、取り壊した更地に新しい建物を建築してもらいましょう。
一般的に建物を建て替える場合、次のような流れで進行します。
- 予算やプランを業者と話し合う(着工の約6カ月前)
- 建て替え業者を決める(着工の約5カ月前)
- 建て替え業者と契約する(着工の約4カ月前)
- プランの決定と見積もりの提出(着工の約2カ月前)
- 各種申請、仮住まいへの引越し(着工の約1カ月前)
- 既存の家の取り壊し(着工)
- 基礎づくり〜棟上(着工から約1ヶ月間)
- 新築工事(着工から約2〜5ヶ月後)
業者選びまで含めると、共有名義不動産の建て替えには約8カ月ほどかかります。
またリフォームと建て替えで迷う方も多いですが、それぞれ次のように異なります。
リフォーム | 建て替え | |
---|---|---|
工事内容 | 既存住宅の基礎部分を残したまま、部分的に改修する | 既存住宅を基礎部分から取り壊し、新しく建て直す |
工事費用の相場 | 350〜2,000万円 | 1,000〜4,000万円 |
工事期間 | 1〜5ヶ月 | 3〜8ヶ月 |
リフォームであれば、建物を取り壊す必要がなく、建て替えとは異なり持分割合の過半数があれば実行できます。
一部の共有者が反対する場合、建て替えではなくリフォームも選択肢に入れておくとよいでしょう。
共有名義不動産を建て替え・取り壊しする費用
共有名義不動産を建て替え・取り壊しする際、もっとも気になるのが「どのくらい費用が必要になるか?」という点です。
また共有名義不動産の場合、1人で不動産を所有しているわけではないため「誰がどの程度の費用を負担するのか?」も重要になります。
この項目では、共有名義不動産の建て替え・取り壊し費用の相場と、費用を負担する人物や割合について解説します。
建物の取り壊しにかかる費用の相場
建物の取り壊しにかかる費用は、建物の構造によって金額がある程度決まります。
建物を取り壊す場合、かかる費用の相場は次の通りです。
構造 | 単価 |
---|---|
木造 | 坪4~5万円 |
軽量鉄骨造 | 坪6~7万円 |
鉄筋コンクリート造 | 坪7~8万円 |
基本的には固い構造体の建物ほど、取り壊しにかかる費用は高くなります。
単純に重機や職人の人数が必要になるため、解体工事の手間が増えるからです。
・5万円 × 30坪 = 150万円
一般的に建物の解体費用は100~200万円程度かかる場合が多いです。
ただし、取り壊す建物が空き家の場合、自治体が取り壊し費用を補助してくれるケースもあります。
空き家を取り壊す前には、建物の所在する地域の役所へ連絡して、利用できる制度を確認してみてください。
建物の建て替えにかかる費用の相場
建物の建て替える際の費用は、建物の床面積によって金額が変わります。
建物の建て替えにかかる費用の相場は以下の通りです。
延床面積 | 工事費 |
---|---|
90~110㎡ | 1,000万円台 |
110~120㎡ | 2,000万円台 |
120~130㎡ | 3,000万円台 |
建物を建て替える場合、1,000万円以上はかかると考えておきましょう。
なお、建て替え工事の費用は、分割払いに対応してもらえるケースが多いです。
- 契約時に10%
- 着工時に20%
- 工事中に40%
- 引き渡し時30%など
建て替え・取り壊し費用は持分割合に応じて共有者全員で負担しよう
共有名義不動産の建て替え・取り壊し費用について、法律上のルールはありません。
つまり、共有者の1人が全額負担しても、共有者全員で負担しても問題ありません。
ただし民法では「共有物の管理行為において、持分割合に応じた費用を負担する」ように定めています。
民法第253条
1 各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。
2 共有者が一年以内に前項の義務を履行しないときは、他の共有者は、相当の償金を支払ってその者の持分を取得することができる。
そのため、共有名義不動産の建て替え・取り壊し費用は持分割合に応じて、共有者全員で負担することが多いです。
この場合、以下のように兄弟で取り壊し費用を負担することが多いです。
・兄=150万円 × 2/3 = 100万円
・弟=150万円 × 1/3 = 50万円
建て替え費用の負担割合によって共有者間の持分割合も変わる
原則として、共有名義不動産の持分割合は各共有者が不動産を取得するために負担した金額に応じて決まります。
- 持分割合 = その人が負担した金額 ÷ 不動産の購入代金
この場合、建て替え後の共有名義不動産の持分割合は次のとおりです。
・兄=1,000万円 ÷ 1,500万円 = 2/3
・弟=500万円 × 1,500万円 = 1/3
建て替え費用の負担割合と持分割合が異なると、その差額分を贈与と見なされて、贈与税が課税されてしまう恐れもあるため注意しましょう。
この場合、建て替え後の共有名義不動産の持分割合を兄1/2:弟1/2としてしまうと、250万円が兄から弟への贈与と見なされて、贈与税が課税されます。
なぜなら、弟が持分割合1/2を取得するために必要な金額は750万円であるのに対して、実際に負担した金額は500万円なので、差額の250万円は兄から弟への贈与と扱われるからです。
共有者全員の同意が得られない場合の建て替え・取り壊し方法
共有名義不動産の建て替え・取り壊しを提案しても、共有者全員が同意するとは限りません。
- 「愛着があるので、生まれ育った実家を取り壊したくない・・・」
- 「住む場所がなくなるので、家を取り壊して駐車場にするのはやめてほしい・・・」
こうした場合、共有名義不動産の建て替え・取り壊しを実行する方法は2つあります。
- 共有者全員の持分を買取して「単独名義不動産」にする
- 「共有物分割請求」によって共有名義不動産を分割する
それぞれの方法を1つずつ見ていきましょう。
1.共有者全員の持分を買取して「単独名義不動産」にする
1つ目は、共有者全員の持分を買取して単独名義不動産にする方法です。
共有持分をすべて取得すれば、共有名義ではなく単独名義となり、不動産を自由に建て替え・取り壊しできます。
このように他共有者の持分をすべて買い取って、共有名義不動産を自分の単独名義不動産へ変えることを「全面的価格賠償」といいます。
ただし、他共有者が持分の買取に応じるとは限らないため、確実に建て替え・取り壊しができる方法とはいえません。
2.「共有物分割請求」によって共有名義不動産を分割する
2つ目は、共有物分割請求を起こして共有名義不動産を単独名義に分割する方法です。
わかりやすくいうと、共有者間での話し合いや裁判を起こして、先述した「全面的価格賠償」を求めるという方法です。
民法では、共有名義不動産を分割して単独名義へ変更する権利が各共有者へ与えられています。
民法第256条
共有者間で共有物を分割しない旨の契約が締結されている場合を除き、各共有者はいつでも共有物の分割を請求できる
「共有物分割禁止特約」で共有名義不動産の分割を禁止していない限り、共有物分割請求をおこなうことができます。
「共有物分割請求」とは、共有名義不動産を分割して単独名義へ変更することを他共有者へ求める請求のことで、次の3ステップで進行します。
- 共有物分割協議:共有者のみで話し合う
- 共有物分割調停:調停委員を含めて話し合う
- 共有物分割訴訟:共有物の分け方を裁判所に決定してもらう
はじめは共有者のみで話し合う「共有物分割協議」をおこない、必要に応じて「共有物分割調停」や「共有物分割訴訟」へ発展していきます。
民法第258条
1 共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
共有物分割請求の結果、次のいずれかの方法で共有名義不動産を分割して、共有状態を解消します。
- 現物分割:共有名義不動産そのものを物理的に分ける
- 代償分割:共有者同士で持分を売買する
- 換価分割:共有名義不動産を売却して利益を分け合う
共有名義不動産を単独名義にしたい場合は「代償分割」の中でも「全面的価格賠償」がベストでしょう。
「全面的価格賠償」とは、共有者の1人が他共有者の持分をすべて取得して、不動産を共有名義から単独名義に変える分割方法です。
ただし、他共有者が共有名義不動産の分割に応じるとは限らず、裁判を起こしても全面的価格賠償が認められるとは限りません。
共有物分割請求で全面的価格賠償を求める方法については、こちらの記事で解説しているので参考にしてください。
共有物分割請求における全面的価格賠償とは?不動産を単独所有するための方法を解説!他共有者の同意が得られない場合は弁護士に相談しよう
共有名義不動産を分割する場合、お互いの利害がぶつかるため、話し合いが長期化したり裁判に発展するケースも珍しくありません。
このように他共有者が共有名義不動産の分割に同意してくれない場合、不動産トラブルに強い弁護士へ相談するとよいでしょう。
不動産トラブルに精通した弁護士であれば、法的知識を備えているだけでなく、過去の判例なども熟知しているので、あなたの望む方法で共有物を分割してくれるでしょう。
他共有者との交渉を代行してくれるので、精神的にも安心できますし、裁判に発展しても「全面的価格賠償」を勝ち取ってくれる可能性が高いです。
共有名義不動産は建て替えるべき?取り壊すべき?
まだ「共有名義不動産を建て替えるか?取り壊しするか?」で迷っている方も多いでしょう。
単純に考えれば、取り壊し費用に加えて建て替え費用もかかるため、共有名義不動産を建て替える方が経済的負担は大きいです。
しかし建物を取り壊して更地にすると、減税措置が受けられなくなり、固定資産税や都市計画税が高くなるというデメリットもあります。
この項目では、共有名義不動産を取り壊す際のデメリットと建て替える場合のベストな方法を紹介します。
建物を取り壊すと固定資産税や都市計画税が高くなるため注意
共有名義不動産が居住用の住宅やアパートの場合、建物を取り壊して更地にすると、固定資産税や都市計画税が増えてしまうため注意が必要です。
人が居住するための建物が建っている土地には「住宅用地特例」という減税措置が適用されて、固定資産税や都市計画税が減額されています。
住宅の種類 | 固定資産税 | 都市計画税 |
---|---|---|
小規模住宅用地 (住宅やアパートなどの敷地で200㎡以下の部分) |
価格×1/6 | 価格×1/3 |
一般住宅用地 (住宅やアパートなどの敷地で200㎡を超える部分) |
価格×1/3 | 価格×2/3 |
居住用の建物を取り壊すと、住宅用地特例が受けられなくなるため、土地に課される固定資産税は最大6倍、都市計画税は最大3倍まで増えてしまいます。
ですので、税金の負担が増えることも考慮して、共有名義不動産の建物を取り壊すべきか慎重に検討しましょう。
もし共有名義不動産を取り壊す場合、毎年1月1日に固定資産税の税額が決まるため、1月2日以降に建物を取り壊すことで、1年分だけ住宅用地特例で税金を抑えられます。
建物を建て替えるなら自由に扱える「単独名義」に変更しよう
共有名義不動産を建て替える際、なるべく共有名義から単独名義へ変更しましょう。
ここまでお伝えしたとおり、共有名義のままでは、不動産の管理・変更行為が自由におこえません。
不動産を貸し出す場合も売却する場合も、基本的に他共有者の同意が必要になります。
自分の単独名義にすれば、建て替え・取り壊し後の不動産を自由に貸したり売却できるので、資産として活用しやすくなります。
共有名義不動産を単独名義に変更する場合は「全面的価格賠償」で不動産全体を取得するのがベストでしょう。
なお、他共有者が持分の買取に応じてくれない場合、不動産トラブルに強い弁護士へ協力を仰いで説得してもらうとよいでしょう。
不動産を自由に建て替え・取り壊しするなら共有名義の解消がベスト
共有名義不動産を建て替え・取り壊しする場合、共有者全員の同意が必要です。
ですので、不動産の建て替え・取り壊しに付け加えて、共有名義も解消しておくことをおすすめします。
共有名義さえ解消してしまえば、他共有者の同意がなくても分割後の不動産を自由に建て替え・取り壊しできます。
ただし、共有名義を解消する方法は数種類あり、取得できる単独名義不動産が面積が小さくなってしまうケースもあります。
そのため、共有名義を解消する際は「全面的価格賠償」で他共有者の持分をすべて買い取るのがベストです。
とはいえ、他共有者が持分を買取させてくれるとは限らないため、より確実に「全面的価格賠償」をおこないたいのであれば、弁護士へ相談するとよいでしょう。
また次のような場合、あなたの共有持分を専門業者に買取してもらうことで共有名義から抜け出すことができます。
- 「他共有者が同意してくれないので、共有関係自体が面倒になった・・・」
- 「裁判を起こしてまで、共有名義不動産を建て替え・取り壊しする必要はない・・・」
おすすめの共有持分専門買取業者については、こちらの記事で解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
【共有持分の買取業者おすすめ28選!】共有名義不動産が高額買取業者の特徴と悪質業者の見極めポイント!共有名義不動産の建て替え・取り壊しでよくある質問
はい、共有名義不動産の建て替え・取り壊しを行う場合、共有者全員の同意が必要になります。1人でも同意が得られない場合、建て替え・取り壊しはできません。
法律上のルールはありませんが、持分割合に応じて共有者全員で建て替え・取り壊し費用を負担するのが一般的です。
「全面的価格賠償」で他共有者の持分をすべて買い取る、または「共有物分割請求」をおこない裁判で全面的価格賠償を請求しましょう。
共有名義不動産を建て替える場合は1,000〜4,000万円、取り壊す場合は100~200万円程度かかります。
弁護士と連携した共有持分専門の買取業者であれば、老朽化した不動産そのものや共有持分(各共有者の所有権)をそのまま買い取れる可能性があります。放置して事故が起こる前に、買取業者に相談して処分することも検討してみましょう。→弁護士と連携した買取業者はこちら