不動産が共有状態にあると、その不動産は自分1人の意志だけでは自由に扱えません。
このことから「共有状態を解消して不動産の権利をすべて取得したい!」と考える人も少なくありません。
共有状態を解消するためにおこなう話し合いのことを「共有物分割請求」といいます。
そこで、この記事では共有物分割請求によって、共有状態の解消方法をわかりやすく説明しています。
また、共有物分割請求にはいくつか種類があり、その中でも共有不動産の単独所有者になるためにおこなわれる「全面的価格賠償」について詳しく解説しています。

- 共有物分割請求とは、共有不動産の分割方法を決める話し合いのこと。
- 価格賠償とは金銭を用いて、共有者全員が損しないように共有物を分割する方法。
- 全面的価格賠償が認められるためには、さまざまな条件がある。
- 共有物分割請求が裁判に発展する場合は、弁護士に依頼しよう。
価格賠償は「共有物分割請求」における共有物を分ける方法の一つ
共有物分割請求とは、共有不動産の分割方法を決める請求のことです。
共有者間での話し合いや裁判によって、不動産の分割方法が決められます。
また、共有物分割請求の方法の一つに、価格賠償というものがあります。
価格賠償とは、共有者全員が損しないように、金銭を用いて共有不動産を分割する方法です。
価格賠償をすると不動産の共有状態を解消できるため、不動産の単独所有者になれます。
共有物分割請求については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてみてください。

協議や裁判の結果に応じて共有物が分割される
共有物分割請求は、まず共有者間での話し合い(協議)がおこなわれ、協議が調わない場合に裁判に発展します。
共有者間での協議が調った場合は、協議の内容通りに共有不動産を分割するとよいでしょう。
しかし、共有者間での協議が調わなかった場合、共有物分割請求は裁判に発展し、その結果に応じて共有不動産が分割されます。
なお、共有物分割請求における裁判を提起する場合、共有物分割請求訴訟が必要になります。
以下の記事で、共有物分割請求訴訟(訴状)について解説していますので参考にしてください。

共有物分割の方法には価格賠償の他に「現物分割」「換価分割」がある
共有不動産の分割は大きく分けて「代償分割(価格賠償)」「現物分割」「換価分割」3つの方法でおこなわれます。
代償分割 | 金銭を用いて共有不動産を分割する |
現物分割 | 共有不動産を物理的に分ける |
換価分割 | 共有不動産そのものを売却して利益を分け合う |
現物分割は、共有不動産を物理的に分けるため、家屋ではなく土地を分割するときに多くおこなわれます。
換価分割は、共有不動産そのものを売却してしまうため、共有者全員が共有不動産を利用しない場合に多くおこなわれます。
共有物分割請求をする場合、不動産の扱いに応じて分割方法を決めます。
価格賠償は「一部価格賠償」と「全面的価格賠償」にわけられる
共有物分割請求時におこなわれる価格賠償は2種類にわけられます。
「一部価格賠償」と「全面的価格賠償」です。
どちらの方法も、共有不動産を分割するために賠償金の支払いがあります。
以下の項目でそれぞれの方法について詳しく説明します。
一部価格賠償とは共有物を現物分割した際の過不足を埋める分割方法
共有不動産を現物分割した際に、それぞれの取得分に過不足がある場合、その過不足を金銭で埋めることがあります。
このように、共有不動産を現物分割したとき、過不足を埋めるためにおこなわれる価格賠償を「一部価格賠償」といいます。
そして、100㎡の土地をAさん50㎡:Bさん50㎡で均等に分けたとします。
このとき、Aさんの土地は道路に面している土地、Bさんの土地は道路に面していない土地と分けてしまうと、各土地の市場価値に差が出てしまうため公平ではありません。
この場合、AさんからBさんに対して、各土地の市場価値の差額が支払われます。
例のように、共有不動産を現物分割した際に、過不足が発生してしまった場合、その過不足を金銭で埋める必要があります。
全面的価格賠償とは他共有者の持分をすべて買い取り、ある共有者の単独所有にすること

全面的価格賠償(代償分割)
共有不動産を単独所有にしたい場合「全面的価格賠償(代償分割)」をおこないます。
全面的価格賠償とは、共有者のうち誰かひとりが他共有者の持分をすべて買い取り、ある共有者の単独所有にする方法です。
全面的価格賠償で不動産を分割すると、持分をすべて購入した共有者は不動産の単独所有者になるため、不動産を自由に扱えるようになります。
また、持分を手放した人は共有状態から開放されて、まとまったお金も手に入るので、共有者全員が損をしない分割方法だといえます。
要するに、全面的価格賠償は共有者間で不動産持分を売買するようなイメージです。
全面的価格賠償が認められるために重要な3つの要素
じつは、全面的価格賠償は民法に明確な規定がなく、特殊な事例であるとされています。
では、全面的価格賠償はどのような場合に認められるのでしょうか。
全面的価格賠償を利用できるかどうかは、各事案においてそれぞれの事情を考慮して決められます。
ただし、各事案における事情の中でも、特に重要視されている要素が3つあります。
以下の項目で、それぞれの要素について詳しく解説します。
1.ある共有者が不動産をすべて取得することに相当な理由がある
特定の共有者が不動産のすべてを取得することに、相当な理由があるかどうかが、重要視されている要素の一つです。
共有者それぞれの持分割合や各共有者の希望、該当不動産の利用目的などが取得における理由になり得ます。
また、その不動産に居住しているかどうかが、相当な理由として認められるケースもあるようです。
2.全面的価格賠償される不動産の価値を適正に評価できている
不動産の価値が適正に評価されていないと、不平等な価格賠償がされてしまうかもしれません。
ですので、全面的価格賠償される不動産の価値が、適正に評価されていることが重要視されます。
このとき、「該当不動産が競売された際の売却価格」ではなく「該当不動産の時価」をもとに適正な評価とされます。
不動産の価値(時価)を評価するため不動産鑑定士に鑑定を依頼するとよい
不動産の価値(時価)は、不動産鑑定士による鑑定をおこなうことで、正しく評価できます。
不動産鑑定士とは、不動産に関する法律をもとに、さまざまな角度から不動産の経済価値を評価する国家資格のことです。
全面的価格賠償における裁判がおこなわれる際、該当不動産の価値を公示するため、不動産鑑定士により作成された「不動産鑑定評価書」が必要になります。
ですので、全面的価格賠償をおこなう際は、不動産鑑定士に該当不動産を評価してもらうべきでしょう。
3.不動産をすべて取得する共有者が十分な支払い能力を有している
全面的価格賠償において、最も重要視されているのが「不動産をすべて取得する共有者が十分な支払い能力を有しているか」です。
もしも、不動産を取得するための相当な理由があり、該当不動産の価値が正しく評価されていたとしても、他共有者に対して賠償金の支払いができなければ、全面的価格賠償できません。
つまり、共有不動産を全部取得したい人が、賠償金を支払えなければ全面的価格賠償での不動産分割は不可能です。
全面的価格賠償は「共有者間での不動産売買」のようなものです。
不動産購入にかかる金額を支払えない場合、不動産を購入できないのは当然だといえるでしょう。
支払能力を証明するために預金通帳のコピーか残高証明書が必要
全面的価格賠償をする場合、取得する共有不動産における賠償金の、支払い能力を証明する必要があります。
支払い能力の証明は、預金通帳のコピーや残高証明書などの提出でおこなわれるケースが多いです。
預貯金がすくなく、賠償金額に達さない場合は、全面的価格賠償における不動産分割は困難でしょう。
価格賠償請求における訴訟を提起する場合は弁護士に相談しよう
価格賠償は当事者間の協議だけでおこなわれる場合もありますが、話がこじれてしまうと裁判によって価格賠償しなければなりません。
裁判による価格賠償を望む場合、訴訟を提起する必要があります。
訴訟は当事者でも提起できますが、価格賠償における訴訟は弁護士に相談・依頼すべきでしょう。
本人による訴訟だと、書類や証拠の用意をすべて自分でおこなう必要がありますし、法律にもとづいた主張も難しいため、裁判の勝率が下がってしまいます。
弁護士に依頼すると、訴訟に必要な手続きなどを全て代行してくれますので、と安心して任せられます。
弁護士費用に明確な相場はなく不動産や共有者の状況によって費用が決まる
法律によって、共有物分割請求の着手金や報酬金の割合など、弁護士報酬は自由化されています。
そのため、弁護士費用に明確な相場はありません。
ですので、いくつかの弁護士事務所に見積もり依頼し、その中で最も条件のよい弁護士事務所に依頼するとよいでしょう。
共有物分割請求における弁護士費用については、こちらの記事で詳しく解説しています。

共有不動産を単独所有するために全面的価格賠償をしよう
共有不動産を単独所有するためには、共有物分割請求によって全面的価格賠償を請求する必要があります。
全面的価格賠償が認められるための、明確な規定などはありませんが、裁判で重要視されている要素もあります。
その中でも、最も重要視されているのが「賠償金の支払い能力の有無」です。
全面的価格賠償によって、共有不動産の単独所有を希望する際は、預貯金に余裕をもっている必要があります。
また、共有者間での協議が調わない場合、共有物分割請求における裁判の訴訟が必要になります。
共有物分割請求が裁判まで発展した場合は、弁護士に相談するとよいでしょう。