抵当権とは、ローンの返済が遅れたときに対象の不動産を差し押さえる権利です。
共有不動産において共有者それぞれがもつ所有権である「共有持分」に対しても抵当権を設定可能です。共有持分に対する抵当権設定は、他共有者に相談せずに自由におこなえます。
実際に抵当権が実行されて共有持分を差し押さえられると、競売にかけられて第三者に落札される可能性があります。
第三者が共有不動産を占有したり、強引に売却を迫ってくる恐れがあるので、共有持分に抵当権を設定するときは「抵当権実行後のリスク」を充分に検討しましょう。
また、抵当権が設定されている共有持分でも売却できる可能性があるので、ローンの返済に困っている場合、共有持分専門の買取業者に買取をしてもらえないか相談してみましょう。
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- 共有持分への抵当権設定は他共有者の同意なくできる。
- 競売にかけられた共有持分の売却価格は低くなることが一般的。
- 共有持分の抵当権設定においては「抵当権」「地上権」「法定地上権」の3つの理解が大切。
共有持分だけに抵当権の設定はできる
共有持分のみに抵当権を設定することは可能ですが、事例としてはあまり多くありません。
しかし、共有持分の抵当権が実行され、競売にかけられるとすべての共有者に影響があります。そのため、不動産を共有する人は抵当権についてかならず知っておくべきです。
この項目では、共有持分における抵当権設定の概要を説明していきます。
「抵当権の設定」に他共有者の同意は不要だが事前の相談はするべき
自分の共有持分のみに対してであれば、抵当権を設定するのに他共有者の同意は不要です。
しかし、債務不履行により抵当権が実行されると、他共有者の共有持分への影響は避けられません。
抵当権が実行されると、共有持分は競売にかけられます。このとき、他共有者も共有持分を手放さざるを得なくなる可能性があるのです。
そのため、共有持分に抵当権を設定するときは他共有者へ相談するのがよいでしょう。
共有持分が競売にかけられたときの対象方法については、下記の記事をご参照ください。
他共有者の共有持分が「競売となったとき」の5つの解決法|競売に陥る前にできることも解説します
抵当権は共有物分割の影響を受けない
共有持分の抵当権設定後に共有物が分割されたとき、抵当権は分割後の「どちらかの不動産」に限定されるのではなく、分割された「すべての不動産」に効力をおよぼします。
この場合、Aが設定した抵当権は「Aが取得した土地200坪」と「Bが取得した土地300坪」の両方に、それぞれ2/5の割合で存在するとされます。
なぜこのような考えになるかというと、抵当権が分割された土地の一方に集中すると、抵当権者にとって不利益になる可能性があるからです。
ただし、土地の状況や持分割合に応じて判断が変わることもあるので、詳しくは不動産問題に詳しい弁護士に相談するのがよいでしょう。
抵当権を公に証明するには登記が必要
不動産に抵当権を設定するときは登記が必要です。登記することによって、公にも権利関係が証明されます。
抵当権設定の原則として、不動産や共有持分の一部分だけには抵当権を設定できないというものがあります。
ただし、共有持分を数回にわけて取得していた(例えば、1/3の持分を3回にわけて取得し、結果的に単独名義の所有者になるなど)場合、取得したときの持分だけに抵当権を設定することは可能です。
複数の不動産をまとめて抵当権を設定できる
抵当権を設定するとき、その対象の不動産を複数にすることもできます。
Aが所有する「単独名義の土地a」「単独名義の建物b」「土地cの1/2共有持分」をまとめて抵当権設定することも可能です。
この場合、登記申請書の目的欄に「抵当権設定およびA持分抵当権設定」と記載することで、同時に登記申請できます。
不動産ごとに申請するとその分手数料もかかるので、複数の不動産で抵当権設定するときは覚えておきましょう。
他の共有者が設定した抵当権は債務の完済後であれば外せる
抵当権の設定を登記上で外すためには「抵当権抹消登記」の申請が必要です。
抵当権は、対象の債務が完済されても自動では外れません。例えば、住宅ローンを完済しても自分で抹消登記を申請しないと抵当権はついたままです。
抵当権抹消登記の申請は、民法第252条によるところの保存行為とされるため、共有者のひとりが他共有者の抵当権抹消登記を申請することが認められています。
民法第252条
共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格にしたがい、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。引用:e-Govポータル「民法第252条」
ただし、抵当権に対する債務が完済されている場合に限ります。
共有持分の抵当権設定において覚えておくべき3つの権利
共有持分へ抵当権を設定するときに押さえておくべき権利が3つあります。
それは「抵当権」「地上権」「法定地上権」です。
3つの権利の関係性を理解することは、抵当権設定した共有持分が競売となってしまったときの対処にも役立ちます。
この項目では、これら3つの権利について、その概要を解説します。
また、別の記事で地上権や法定地上権をより詳しく解説していますので、こちらもご参照ください。
地上権とはどんな権利?共有不動産における法定地上権の発生基準などを解説します
抵当権とは「債権者が土地や建物を担保とする権利」
抵当権とは、債務者の債務不履行があったときに債権者が家や土地を担保にして債権を回収できる権利です。
例えば住宅ローンを組むときに、金融機関は土地や建物に抵当権を設定できます。
そして、万が一ローンの返済が滞ったときは抵当権を行使して、土地や建物を競売にかけてローンを回収します。
つまり、お金を借りた人(債務者)の返済が滞ってしまったとき(債務不履行)に、お金を貸した人(債権者)が土地や建物を差し押さえて、貸したお金を回収できるということです。
地上権とは「建物の所有者が土地を利用する権利」
地上権とは、建物がある土地を建物の所有者が利用できる権利のことです。
土地と建物の所有者が同じであれば問題なく土地を利用できますが、土地と建物で所有者が違う場合、建物所有者は土地を利用する権利を土地所有者に認めてもらわなければなりません。
その場合、土地所有者と建物所有者が合意して地上権を設定することで建物所有者は土地を利用できます。
ただし、地上権は土地所有者の同意なく建物所有者が地上権を譲渡できるなど、土地所有者への制限が強い権利になります。
そのため、一般的には地上権ではなく、比較的に権限のゆるい貸借権を設定することが一般的です。
賃借権についての詳しい解説は別記事をご覧ください。
【賃借権とは?】知っておくべき基礎知識と共有持分の譲渡・賃貸借で必要な条件
法定地上権とは「法によって定められた地上権」
法定地上権とは、法律によって定められた地上権であり、基本的な考え方は地上権と同じです。
ただし、法定地上権は土地や建物に競売が起こった場合に成立し、土地所有者と建物所有者の合意なく設定されます。
競売により不動産が落札されて、土地と建物の所有者が別々になるケースがあります。その場合に建物の所有者が土地の利用権を認められなかったら、誰も土地上の建物を落札しなくなることが考えられます。
そこで競売により土地と建物の所有者がわかれた場合、法定地上権が行使されることで双方の合意がなくても法律によって地上権が認められるのです。
法定地上権が成立すると、建物所有者は土地所有者に土地利用を認められたことになり、建物を利用できます。
法定地上権が基本的に認められる3つのパターン
競売で落札された建物は法定地上権が認められるとはいえ、すべての場合に認められるわけではありません。
以下の4つの要件を満たすことで、法定地上権は認められます。
- 抵当権が設定されたときに建物が既にあった
- 抵当権が設定されたときに、土地と建物の所有者が同一だった
- 土地、建物のどちらか一方または両方に抵当権が設定された
- 競売により、土地と建物の所有者が別々になった
この項目では例を挙げながら、具体的にどんなときに法定地上権が成立しうるのか説明していきます。
建物の共有持分に抵当権が設定され土地は単独名義
以下の条件では、要件を満たしているため基本的に法定地上権が認められます。
・土地がAの単独名義で抵当権は設定されていない→2を満たす
・抵当権が設定されたときに建物は既にあった→1を満たす
・競売でAの建物における共有持分をCが落札した→4を満たす
建物を実際にどう使うかは、共有者となったBとCの話し合いによります。
法定地上権が成立しているため、土地の所有者であるAはCに対して「建物の利用のために土地を使うこと」を妨げることはできません。
共有名義の建物全体に抵当権が設定され土地は単独名義
以下の条件では、要件を満たしているため基本的に法定地上権が認められます。
・土地がAの単独名義で抵当権は設定されていない→2を満たす
・抵当権が設定されたときに建物は既にあった→1を満たす
・競売により建物の所有者がCとなった→4を満たす
この場合も法定地上権が成立するため、AはCに対して「建物の利用のために土地を使うこと」を認めなければいけません。
共有名義の土地全体に抵当権が設定され建物は単独名義
以下の条件では、要件を満たしているため基本的に法定地上権が認められます。
・建物がAの単独所有で抵当権は設定されていない→2を満たす
・抵当権が設定されたときに建物は既にあった→1を満たす
・競売によりAの土地における共有持分をCが落札した→4を満たす
この場合、法定地上権が認められるとCは落札した土地を自由に利用できません。
しかし、Cは競売後にAの法定地上権が認められることが予想できたと解釈されるので、法定地上権が認められることが一般的です。
個々の事情に左右されるので弁護士への相談がおすすめ
上記の3つは基本的に法定地上権が認められるパターンですが、土地・建物の状態や、所有者および落札者の事情などによって大きく変わものです。
さらに、法定地上権の成立に関しては、さまざまな学説や判例があるため個別の事情が成立の可否に大きな影響をおよぼします。
詳しくは不動産に詳しい弁護士に相談するのがよいでしょう。
法定地上権が成立しても地代の請求はできる
競売によって土地上の建物所有者が変わり法定地上権が成立したとしても、土地所有者は建物所有者へ地代(土地の利用料)の請求が可能です。
ただし、金額は土地所有者と建物所有者で話し合って決めることとなります。
話し合いで決まればよいのですが、決まらなければ訴訟によって決めることもできます。
また、一定の条件が認められれば建物所有者へ建物の明け渡し請求ができるので、その条件も一緒に見ていきましょう。
話し合いで決まらなければ地代確定請求訴訟を起こせる
地代の金額が土地所有者と建物所有者での話し合いで決まらなかった場合、地代確定請求訴訟を起こすことが可能です。
地代確定請求訴訟とは、法定地上権における「地代の金額を設定する」ところだけを裁判所がおこなう手続きです。
民法第388条
土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。引用:e-Govポータル「民法第388条」
※民事執行法第81条にも同様の記載があります。
建物所有者の事由で明渡しを請求できる条件
法定地上権の存続期間は借地借家法が適用されてから30年です。
30年経過後に更新を拒否しなければ自動更新となり、初回の更新では20年、その後は10年ずつ更新されていきます。
法定地上権の更新拒否や解除、また明け渡しを請求するには「正当な事由」が必要です。
それでは、どんな事由が一般的に正当とみなされるのか説明していきます。
建物所有者と合意の上で法定地上権を解除した場合
建物所有者の同意があれば、最初の30年が経たなくても法定地上権の設定を解除できます。
また、建物所有者の同意があれば新しい条件を自由に設定することもできますし、土地所有者が建物を買い取ることもできます。
法律で決められた地上権といえども、土地を貸す・借りるというのは双方の契約によるものです。解除するかしないかは、おたがいの協議次第といえるでしょう。
地代を長期にわたって滞納した場合
建物所有者が長期にわたって地代を滞納した場合、土地所有者は建物の明け渡しを請求できます。
「どのくらい滞納すれば請求できるか」という期間の定めはなく、裁判ではそれまでの経緯などから総合的に判断されます。
6ヶ月の滞納期間が必要ということもあれば、2ヶ月間で明け渡しが認められる事例もあるようです。
法定地上権を更新しなかった場合
法定地上権の期間満了時に更新しなければ、法定地上権は消滅します。
ただし、更新時に正当な事由がなければ基本的には自動更新となるため注意しましょう。
建物の老朽化や土地所有者に土地利用が必要な理由があれば、正当な事由と認められる可能性があります。
建物所有者が管理を怠るなど建物がひどく老朽化した場合
契約途中であっても、建物所有者が管理を怠ったことによる建物の老朽化などが正当な事由と認められて地上権が解除できることがあります。
建物がなくなれば法定地上権も消滅します。
また、法定地上権解除後の建物残置物は建物所有者に撤去の義務があることが一般的です。
共有持分に抵当権を設定するときは抵当権実行後のことを考えよう
共有持分における抵当権の設定は他共有者へ相談なくできますが、実際に抵当権が実行されると他共有者の持分に大きく影響します。
競売後に法定地上権が認められた場合は、自分の所有する土地であっても自由に利用ができなくなる可能性があります。
また、抵当権設定後に共有物を分割したとしても抵当権に影響はないため、分割後の不動産それぞれに抵当権がつき、他共有者も負債を背負うことになるので注意が必要です。
そのため、共有持分に抵当権を設定するときは他共有者に相談したほうがよいでしょう。
共有持分に抵当権を設定することはできますが、抵当権と法定地上権の概要をしっかり理解することが重要です。
共有持分と抵当権についてよくある質問
共有持分とは、複数人が共有する不動産において「各共有者がどれくらいの所有権をもっているか」を指すものです。「持分1/2」というように、割合で表記します。
住宅ローンなど、不動産を担保に融資を受けるとき設定される権利です。ローンの返済が滞ったとき、金融機関が抵当権を実行して対象の不動産を差し押さえます。
はい、設定可能です。自分の共有持分に抵当権を設定する行為は、他の共有者に確認を取る必要もありません。
共有持分を差し押さえられ、競売にかけられます。落札者が新しい共有者となりますが、他共有者に対して持分の売買をもちかけたり、共有物分割請求をおこなう可能性があります。
個別のケースにもよりますが、売却は可能です。ただし、法律や不動産市場の専門知識が必要になるので、まずは弁護士と連携した専門買取業者に相談してみることをおすすめします。→弁護士と連携した買取業者はこちら