共有不動産を貸し出している場合、共有持分をもっていれば持分割合に応じた家賃を得られます。
賃貸物件において家賃の未払いはよく起こるトラブルですが、共有不動産の家賃トラブルは、居住者が「共有者」なのか「共有者以外の賃借人」なのかで対処が異なります。
共有者以外の賃借人なら家賃請求の他に明け渡し請求もできますが、共有者の場合は明け渡し請求ができないので注意しましょう。
家賃の未払い問題がなかなか解決しない場合、共有持分だけを売却する方法も検討してみてください。家賃の回収に手間をかけるより、共有持分だけを売却して現金化するほうが次の資産運用につながります。
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- 共有持分の家賃未払い問題は、居住者が「共有者」と「共有者以外の賃借人」のどちらなのかで考え方が変わる。
- 居住者が共有者の場合は持分割合に応じた家賃を請求できるが明け渡し請求はできない。
- 共有者以外の賃借人には明け渡し請求ができるが、請求するための手続きで「なにができるか」は持分割合で決まる。
- 明け渡し請求が認められるためには、正しく手続きを進める必要がある。
共有持分の家賃未払い問題は居住者が「共有者」か「共有者以外の賃借人」の2パターン
共有持分の家賃未払い問題が発生したとき、家賃を支払わない居住者が「共有者」なのか「共有者以外の賃借人」なのかで考え方を変える必要があります。
居住者が共有者の場合、その人も不動産に対する一定の権利をもっています。
つまり、共有持分をもつ人にはどんな権利があって、共有者同士でなにを請求できるのか、共有者の権限という観点から問題を考えなければなりません。
それに対して、共有者以外の賃借人が住んでいる場合は賃貸借契約の問題になります。
家賃を滞納する賃借人に対して、どういった対応をすれば家賃を回収できるのか、もしくは明け渡しを請求できるのか、賃貸借契約の観点から考える必要があります。
次の項目から、家賃を支払わない居住者が「共有者」の場合と「共有者以外の賃借人」の場合で、それぞれどんなことを考慮すべきなのか見ていきましょう
居住者が共有者でも持分割合に応じた家賃の支払いを請求できる
共有持分をもつ人には、共有名義の不動産全体を使用する権利があります。
一方、共有者の1人が不動産を占有している状態だと、他の共有者は不動産を使用できません。
そこで、共有者のだれかが占有している状態の場合、他の共有者はその人に対して、持分割合に応じた家賃の支払いを請求できます。
無償で貸し出す「使用貸借」が成立している可能性もある
共有者が共有物である不動産に住んでいる場合、他共有者との間に「使用賃借」が成立しているかもしれません。
使用貸借とは無償で貸し出す契約であり、この契約が成立している間は家賃を請求できません。
共有不動産は家族や親戚で共有していることが多いため、明確な取り決めがないまま無償で貸し続け、それが既成事実となって使用賃借が成立してしまうケースも少なくありません。
その場合、現在の「無償で貸し出している状態」を改めるために、占有している共有者と交渉する必要があります。
共有者への家賃請求は「不当利得返還請求」をしよう
共有者への家賃請求は、法律的には「不当利得返還請求」となります。
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
共有者の1人が不動産を占有している状態は、他人(=他の共有者)が損失を受けている状態といえます。
不動産を占有している共有者に対して、損失の補償を求めるのが不当利得返還請求です。
不当利得返還請求は当事者間の話し合いで行使します。話し合いがまとまらない場合には、裁判所に民事訴訟を提起しましょう。
居住者が共有者の場合は明け渡し請求をできない
通常の賃貸借契約では、居住者に家賃の支払い意思がなく、悪質な滞納が続けば、不動産の明け渡し請求が可能です。
しかし、共有者には不動産を使用する権利があるため、例え他の共有者であってもその権利は侵害できません。
各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。
そのため、例え共有者の1人が不動産を占有していても、明け渡し請求はできません。
共有者以外の賃借人には「自分の共有持分でなにができるのか」を把握しよう
家賃を支払わない居住者が共有者以外である場合は、一般的な賃貸借契約の考え方で問題を解決します。
ここで重要なのが、自分の共有持分でどこまでの行為が可能なのかです。
共有不動産は持分割合によって、不動産に対して可能な行為が決まります。
- 変更(処分)行為:共有持分の全部(共有者全員)の同意が必要
- 管理行為:共有持分の過半数の同意が必要
- 保存行為:持分割合に関わらず共有者全員が単独で可能
共有者以外の賃借人が家賃を支払わない場合、賃貸借契約にもとづく解決策がどんなもので、その解決策をおこなうにはどれだけの持分割合が必要なのか把握しなければなりません。
家賃を請求する権利は単独者それぞれにあるが実務上は代表者が催促する
家賃の未払いが発生したとき、まずは賃借人に対して電話や手紙で家賃の催促をします。
基本的に、家賃の受け取りは共有者のなかから代表者を決めておこないます。賃貸借契約で決められた家賃の支払い方法を変更するのは管理行為となり、持分割合の過半数が必要です。
そのため、滞納時に家賃を請求するのも代表者であることが一般的です。
ただし、権利上は共有者全員が持分割合に応じた家賃を請求できます。
賃貸借契約の解除は持分割合の過半数でできる
賃貸借契約の解除は共有不動産における管理行為とされます。
共有物を目的とする貸借契約の解除は、共有者によってされる場合は、民法第252条本文にいう「共有物の管理に関する事項」に該当すると解すべきであり、右解除については、民法第544条第1項の規定は適用されない。
管理行為には「共有持分の過半数」が必要ですが、これは共有者の人数ではなく持分割合が基準です。
そのため、共有者の1人が1/2超の共有持分をもっていれば、その人が単独で賃貸借契約の解除ができます。
不法占拠者に対する明け渡し請求は持分割合に関わらず単独で可能
不法占拠者に対する明け渡し請求は保存行為に分類されます。そのため、持分割合に関わらず、共有者であるすべての人が単独で明け渡し請求をおこなえます。
注意すべきなのは、家賃を滞納した居住者であっても、すぐには不法占拠者とならない点です。
家賃を滞納した居住者を不法占拠者として扱うには、いくつかの手順を踏んだうえで、賃貸借契約が解除された後になります。
共有者以外の賃借人に対して明け渡し請求をする条件と方法
共有者以外の賃借人に対して明け渡しを請求するには、一定の条件を満たしていなければなりません。
また、賃貸人が誠意を尽くして対応し、所定の手続きを踏まえても賃借人が家賃を支払わない状態と認められる必要があります。
次の項目から、明け渡し請求を実行するための3条件と、具体的な手続きを解説します。
明け渡し請求を実行するための3条件
明け渡し請求を実行するには、以下の3条件を満たす必要があります。
- 家賃未払いの期間が3ヶ月以上
- 賃借人に支払い意思がない
- 貸主と借主の間で信頼関係が壊れている
家賃未払いの期間に法的な決まりはありません。ただし、一般的には3ヶ月以上の家賃滞納が、明け渡し請求をできる目安といわれています。
賃借人が家賃請求の催促や交渉を無視し、支払い意思を示さないことも明け渡し請求の条件です。
また、家賃の滞納が長期間にわたって続き、貸主と借主の間で「信頼関係が壊れている」とみなせるかも重要です。
家賃未払い発生から家の明け渡しまでの具体的な手続き
家賃未払いから家の明け渡しまで、具体的には以下の流れで手続きを進めます。
- 【翌日~1ヶ月以内】電話での催促や内容証明郵便による督促状の送付
- 【1~2ヶ月後】連帯保証人への連絡
- 【3~6ヶ月後】家賃支払いの最終通告と契約解除の通知
- 【6ヶ月後以降】明け渡し請求訴訟
- 【判決後】強制執行
上記の期間は目安であり、実際には前後する可能性があります。家賃の未払い発生から明け渡しの強制執行まで、少なくとも1年はかかると考えておきましょう。
すべての段階を誠実におこなわなければ、明け渡しが認められない可能性もあるので、1つずつ段階を踏んでいく必要があります。
また、明け渡し請求を進めるにあたっては、目的が明け渡しなのか、それとも家賃を回収できればよいのか、方針をしっかりと決めておきましょう。
未払い家賃の回収が目的であれば、明け渡し請求のなかで賃借人と交渉し、場合によっては支払期日の延長など、妥協点を見つけるのも大切です。
【翌日~1ヶ月以内】電話での催促や内容証明郵便による督促状の送付
家賃の未払いが発生したら、電話での催促や請求書の送付をしましょう。可能であれば、家に訪問して催促する場合もあります。
2週間以上、賃借人が支払い意思を示さない場合、内容証明郵便で支払期日を定めた督促状を送付します。
督促状に記載する内容は以下のとおりです。
- 発行日
- 「督促状」という表題
- 支払い期日
- 法的措置についての言及
- 賃料とは別に遅延損害金も請求する旨
- 返信欄や問い合わせの連絡先
【1~2ヶ月後】連帯保証人への連絡
家賃未払いから1~2ヶ月が経過した場合、連帯保証人にも連絡をしましょう。
まずは電話や手紙で、家賃の未払いが発生しているという現状を説明します。
連帯保証人への連絡後も家賃が支払われなければ、連帯保証人に対して督促状を送ります。
連帯保証人へ送る督促状には、下記の内容を記載しましょう。
- 家賃滞納者の現状と滞納金額
- 賃料とは別に遅延損害金も請求する旨
- 支払い期日と合計請求金額
【3~6ヶ月後】家賃支払いの最終通告と契約解除の通知
家賃未払いから3ヶ月経っても家賃が支払われないときは、最終通告としてもう一度、家賃請求をおこないましょう。
それでも家賃の支払いがない場合、契約解除の通知をおこないます。契約解除には「共有持分の過半数の同意」が必要なので、事前に共有者同士で話し合っておきましょう。
契約解除の通知は下記の内容を記入して、内容証明郵便で送りましょう。
- 発行日
- 「契約解除の通知」という表題
- 物件の所在地や賃貸借契約の期間
- 賃貸人と賃借人の名義
- 家賃未払いの期間
- 督促状を送付した日付
- 催告しても支払いが確認できない旨
- 「この通知書をもって契約を解除する」という旨
- 明け渡し期限
【6ヶ月後以降】明け渡し請求訴訟
設定した明け渡し期限を過ぎても賃借人が退去しない場合、裁判所に明け渡し請求の申し立てをおこないましょう。
訴訟を起こすにあたって、下記の書類が必要になります。
- 不動産登記簿謄本
- 固定資産評価額証明書
- 建物賃貸借契約書やこれまでに送った内容証明郵便などの証拠書類
明け渡し請求訴訟で、未払い家賃や遅延損害金の請求についても審理してもらえます。
また、契約解除の通知をしているため、居住者を「不法占拠者」として扱えます。つまり、明け渡し請求訴訟の申し立ては、共有不動産の保存行為として各共有者が単独で可能です。
ただし、個別の契約事情によってはできない場合もあります。訴訟を起こすときは、事前に弁護士へ相談してみましょう。
【判決後】強制執行の申し立て
裁判で明け渡しの判決が出た後、被告側に判決文が送付される1~2週間をまって、裁判所に強制執行の申し立てをしましょう。
強制執行の申し立てには以下の書類が必要です。
- 申立書
- 送達証明書(裁判所に発行を申請)
- 執行文の付与された判決の正本
- 物件の住所が示された地図
申し立ての受理後、賃借人が自主的に退去しない場合、裁判所の執行官による強制退去がおこなわれます。
家賃の未払いがあっても賃借人に対してやってはいけないこと
家賃未払いから明け渡し請求までの間に、賃貸人が賃借人に対してやってはいけないことがあります。
- 勝手に部屋に入る、家財や荷物を屋外へ出す
- 脅迫や暴力による取り立て、明け渡しの強要
- 家財や荷物を屋外へ出す
- 明け渡しの強要
- 鍵の無断交換
これらの行為は誠意のない対応とみなされ、訴訟を起こしても明け渡し請求が認められなくなります。
また、電話連絡や家を訪問しての催促も注意が必要です。深夜や早朝の連絡や、1日になんども催促をする行為は、精神的苦痛を与えたとして損害賠償を請求されるかもしれません。
共有不動産の賃貸管理が面倒なら共有状態の解消や共有持分の売却をしよう
共有不動産の居住者が「共有者」と「共有者以外」のどちらであっても、家賃の未払いをはじめとする各種トラブルは非常に多いといえます。
賃貸物件の管理はもともと面倒なものですが、共有持分の複雑な権利関係とあわさることで、問題はさらにむずかしいものになります。
なかには、共有者として受けられる利益は少ないのに、面倒な管理をすべて押し付けられている人もいるでしょう。
そのような人は、共有状態の解消を請求するか、共有持分の売却を検討してみましょう。
共有者に対して「共有物分割請求」をすれば共有状態を解消できる
共有者は、他の共有者に対して、共有物の分割を請求する権利があります。
持分割合に関係なく、共有持分があればだれでも請求可能です。
分割方法には「現物分割」「代償分割」「換価分割」といった3種類の方法があります。詳しくは下記の関連記事をご覧ください。
共有物分割請求とは?共有物の分割方法や訴訟の手順・費用を詳しく解説「共有持分のみの売却」は他の共有者と話し合わなくても可能
自分の持分だけであれば、他の共有者に同意を得なくても売却できます。
他の共有者と話し合いもしたくないときは、自分の持分を売却して共有関係から抜け出しましょう。
共有持分の売却については、専門の買取業者に相談するのがおすすめです。無料査定や最短数日のスピード買い取りなど、手間をかけずに高額で売却できる可能性が高いでしょう。
【共有持分の買取業者おすすめ28選!】共有名義不動産が高額買取業者の特徴と悪質業者の見極めポイント!共有持分の家賃問題は「居住者がだれか」と「明け渡し請求の手続き」がポイント
共有持分の家賃問題を解決するには、2つのポイントがあります。
1つは、家賃を滞納している居住者が「共有者」と「共有者以外の賃借人」のどちらなのかです。居住者が共有者である場合、明け渡し請求はできません。
しかし、不当利得返還請求にもとづく家賃の請求は可能です。近隣の家賃相場から、持分割合に応じた金額を計算して請求しましょう。
もう1つのポイントは、居住者が共有者以外の賃借人である場合、明け渡し請求の手続きを正しくおこなえるかです。
感情的になって脅迫めいた請求をすれば、明け渡し請求は認められないので注意しましょう。
また、賃借人が支払い意思を示したときは、支払期日の延長など柔軟に対応したほうが、手間をかけずに家賃を回収できます。
いずれにせよ、居住者と交渉する際は冷静に対応しつつ、自身のもつ権利をしっかりと主張していきましょう。
共有不動産と家賃についてよくある質問
はい、可能です。対象の不動産を貸し出した場合の家賃相場から、持分割合に応じた家賃を請求できます。例えば、家賃相場が10万円の場合、持分1/2をもっている共有者は、実際に不動産に居住している共有者から5万円を家賃としてもらえます。
いいえ、できません。各共有者は「共有物を使用する権利」をもっているため、明け渡し請求まではできません。
直接話し合うか、もしくは裁判を起こし「不当利得返還請求」をおこないましょう。不当利得返還請求の時効期間(10年)であれば、家賃をさかのぼって請求することもできます。
可能ですが、未払い発生後すぐには請求できません。条件を満たし、裁判所に訴え出ることで明け渡し請求ができます。
「家賃未払いの期間が3ヶ月以上」「賃借人に支払い意思がない」「貸主と借主の間で信頼関係が壊れている」の3つです。