「共有物分割請求」とは、共有者に対して共有不動産の分割を求める手続きです。
話し合いによる和解ができなかった場合、訴訟を起こして争うことになります。そして、訴訟を起こすときは「訴額」を計算しなければいけません。
共有物分割請求の訴額は、建物の場合は「固定資産税評価額×持分割合×1/3」で、土地の場合は「固定資産税評価額×持分割合×1/6」で計算します。
訴額によって訴訟を起こす裁判所の種類や弁護士の費用が変わるので、事前にしっかりと確認しましょう。
訴訟は時間と費用がかかるため、すぐに共有状態を解消したい場合、自分の共有持分だけ売却することも検討してみましょう。弁護士と連携した買取業者なら、訴訟と売却両方のアドバイスが可能なのでおすすめです。
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- 訴額とは、共有物分割請求で分割する共有持分の価格のこと。
- 共有持分の固定資産税評価額を調べれば、共有物分割請求の訴額を自分で計算できる。
- 訴額によって、裁判にかかる手数料と訴状を提出する裁判所が変わる。
訴額とは共有物分割請求で分割する共有持分の価格
「訴額」とは、共有物分割請求の目的すなわち共有持分の価格です。
訴額は「訴訟の目的の価額」とも呼ばれており、共有物分割請求訴訟を起こす際、訴状の作成にかかる手数料を算出する基礎となります。
よく誤解されますが、共有不動産の価格ではなく、訴訟を起こす原告がもつ共有持分の価格なので注意しましょう。
訴状を作成する場合、手順はこちらの記事を参考にしてください。
共有物分割請求の訴訟や訴状作成は弁護士へ依頼を!共有物分割請求訴訟の基礎知識をわかりやすく解説
共有物分割請求の訴額は自分で計算できる
共有物分割請求にかかる訴額は、裁判所へ問合せなくても自分で計算できます。
ただし、分割したい共有不動産が建物の場合と土地の場合では計算式が異なるため注意しましょう。
共有物分割請求の訴額を求める計算式は次のとおりです。
- 土地の訴額=固定資産税評価額×持分割合×1/6
- 建物の訴額=固定資産税評価額×持分割合×1/3
まずは共有持分割請求の訴額を自分で計算する方法を解説します。
建物の訴額は「固定資産税評価額×持分割合×1/3」
建物の訴額は「固定資産税評価額×持分割合×1/3」で計算できます。
・3,000万円×1/2×1/3=500万円
その根拠としては、過去に裁判所が提示した民事局長通知に基づく、以下の基準があります。
- 固定資産税評価額がある場合、訴額は固定資産税評価額
- 訴訟の目的が占有権の場合、訴額は目的たる物の価格×1/3
共有物分割請求の裁判は「分割後の不動産の占有権を求める」裁判なので、上記2つの基準が適用されるのです。
土地の訴額は「固定資産税評価額×持分割合×1/6」
土地の訴額は「固定資産税評価額×持分割合×1/6」で計算できます。
・3,000万円×1/2×1/6=250万円
なぜ建物と土地で訴額が変わるのかというと「土地を目的とする訴訟について、手数料が高騰しないよう、平成6年4月1日から当分の間は評価額を1/2した金額を訴額とする」と裁判所が決めたためです。
固定資産評価額は共有不動産がある市区町村役場で確認可能
共有物分割請求の訴額を計算する際、まずは「固定資産税評価額」を把握する必要があります。
固定資産税評価額とは、建物や土地を所有している場合に納税する「固定資産税」などの税金を計算する上で基準になる金額です。
わかりやすくいうと「この土地にこの建物を建てたらいくらで売れるか?」を国が予想した金額のことです。
固定資産税評価額は毎年送られてくる納税通知書に同封されている「課税明細書」を見れば確認できます。
もし手元に課税明細書がない場合も、共有不動産がある市区町村の役場で「固定資産税評価証明書」を取得すれば、固定資産税評価額を確認できます。
どの分割方法でも共有物分割請求の訴額は同じ
共有物分割請求には、共有不動産を物理的に分割する請求だけでなく、共有不動産を売って売却益を分割する請求などもあります。
共有物分割請求で共有不動産を分割する場合、3つの分割方法があります。
- 現物分割=共有不動産そのものを物理的に分ける方法
- 代償分割=共有者同士で共有持分を売買する方法
- 換価分割=共有不動産を売却して利益を分け合う方法
共有物分割請求の裁判を起こす際、どの分割方法を請求しても訴額は変わりません。
訴額がわからない場合は裁判所へ問い合わせる
もし自分で計算した訴額が正しいか不安な場合、裁判所へ問い合わせすれば、書記官から訴額や計算方法を教えてもらえます。
この際、共有物分割請求は民事訴訟ですので、共有不動産の所在地または他共有者の住む市区町村を管轄する、地方裁判所の民事訟廷を扱う窓口へ問合せましょう。
例として、東京地方裁判所の場合は以下の窓口が問合せ先になります。
- 東京地方裁判所 民事訟廷事務室事件係(03-3581-6073)
共有物分割請求を起こす際に訴額を調べる3つの理由
そもそも共有物分割請求を起こす際、どうして訴額を調べるのでしょうか。
共有物分割請求を起こす際、訴額を調べる理由には次の3つがあります。
- 訴状作成にかかる手数料が変わる
- 訴状を提出する裁判所が変わる
- 裁判にかかる弁護士費用が変わる
つまり、訴額がわからないと、共有物分割請求の裁判を起こせないのです。
共有物分割請求を起こす際に訴額を調べる理由について、それぞれ具体的に解説します。
1.訴状作成にかかる手数料が変わる
共有物分割請求の裁判を起こす場合「貼用印紙額」という手数料を裁判所へ払う必要があります。
貼用印紙額とは、裁判を起こすための手数料で、訴額に比例して貼用印紙額も変わります。
以下は一部ですが、訴額が高いほど貼用印紙額も高くなる仕組みです。
訴額 | 貼用印紙額 |
---|---|
100万円 | 1万円 |
500万円 | 3万円 |
1,000万円 | 5万円 |
5,000万円 | 17万円 |
1億円 | 32万円 |
訴額がわからないと貼用印紙額もわからないため、手数料を払えず、裁判を起こせないのです。
訴額と対応する貼用印紙額の一覧表は、裁判所のホームページで確認できます。
参照:裁判所ホームページ
2.訴状を提出する裁判所が変わる
共有物分割請求の裁判を起こす場合、訴額や共有不動産の所在地によって、訴状を提出する裁判所が異なるため注意しましょう。
まず訴額が140万円以下の場合と140万円を超える場合では、裁判所の種類が変わります。
- 訴額が140万円以下の場合=簡易裁判所
- 訴額が140万円を超える場合=地方裁判所
また、共有不動産の所在地や他共有者の住所に応じて、訴状を提出する裁判所の場所も変わります。
- 共有不動産の所在地を管轄する裁判所
- 他の共有者のいずれか1人の住所を管轄する裁判所
わかりやすく説明すると、次の具体例のようになります。
Aさんが共有物分割請求訴訟を起こす場合の裁判所は、次の3つのいずれかとなります。
・Bさんの住所地を管轄する「大阪地方裁判所」
・Cさんの住所地を管轄する「名古屋地方裁判所」
・共有不動産の所在地を管轄する「京都地方裁判所」
まとめると「共有不動産の所在地または他共有者の住所を管轄している、簡易裁判所または地方裁判所に訴状を提出する」と覚えておけば問題ありません。
3.裁判にかかる弁護士費用が変わる
共有物分割請求の裁判を有利に進めたい場合、弁護士への依頼が必要です。
裁判にかかる弁護士費用は事務所によって異なりますが、一般的には「いくら相手に請求するか?」の金額により増減します。
つまり、共有物分割請求の裁判であれば、訴額が高いほど弁護士費用も高くなります。
以前は弁護士会によって「弁護士報酬会規」というルールがあり、それに基づいて弁護士費用を決めていました。
この弁護士報酬会規でも、訴額と弁護士費用は比例する仕組みになっており、現在でもこの計算方法を採用している弁護士事務所は多いです。
共有物分割請求の裁判にかかる弁護士費用の算出方法は、こちらの記事をご覧ください。
共有物分割請求の弁護士費用はどれくらい?算出方法と節約術を詳しく解説
訴額によっては共有物分割請求を再検討しよう
訴額を計算することで、共有物分割請求にかかる大体の費用が把握できたと思います。
共有物分割請求は費用や手間がかかる割に、分割後の共有不動産は資産価値が下がるため、金銭面で見ればデメリットが多いです。
そのため、訴額が高い場合は「共有物分割請求を起こすべきか?」をあらためて再検討した方がよいかもしれません。
共有関係を解消する方法は共有物分割請求だけでなく、共有持分だけを売却する「持分売却」もあります。
共有物分割請求を起こすデメリットや、代替案である持分売却のメリットを解説します。
訴額が高いほど裁判費用も多くかかる
共有物分割請求において、最大のデメリットは裁判費用がかかることです。
先述したとおり、共有物分割請求を起こす場合、訴額が高いほど貼用印紙額や弁護士費用など、裁判費用も高くなります。
訴額によっても変動しますが、共有物分割請求の裁判費用は100万円前後はかかると見ておきましょう。
つまり、もしも他共有者が分割に反対せず、裁判を起こさずに共有不動産を売却できた場合に比べて、100万円近く損をしてしまうのです。
分割後の共有不動産の価格は裁判費用より安い恐れがある
「共有不動産を分割すれば、高く売れるはず!」と考えて共有物分割請求を起こす方が多いですが、必ずしも高く売れるとは限りません。
もし市場価値1,000万円の共有不動産を分割する場合、持分割合1/2を所有していれば「500万円くらいで売れるはず・・・」と誤解されますが、実際に500万円も得られるケースは少なく、手元に入る金額は350万円程度でしょう。
以下の理由から、分割後の共有不動産は売却額が安くなる可能性が高いです。
- 分筆しても面積が小さいため資産価値が低い
- 競売にかかる場合の売却益は本来の約70%
分割後の共有不動産の価格が下がる、それぞれの理由を解説します。
分筆しても面積が小さいため資産価値が低い
裁判の結果によっては「分筆」という方法で共有不動産を物理的に分けて、各共有者の単独所有にするケースがあります。
・100㎡×1/2=50㎡
不動産の資産価値は「坪単価×面積」で決まりますが、分筆後の不動産は面積が小さくなるため、一般的な不動産に比べて資産価値が低下してしまいます。
また、形状が整っていない場合や日当たりの悪い場合など、不動産自体の条件が悪くなることも多く、面積あたりの坪単価も低下してしまいます。
競売にかかる場合の売却益は任意売却の約70%
裁判の結果、一部の共有者が有利になる形で売却されないよう、共有不動産が丸ごと競売にかけられる場合があります。
共有不動産が競売にかけられる場合、任意売却する場合と比較すると、売却益は約70%まで下がってしまいます。
・1,000万円×1/2×70%=350万円
以下の実例を見ても、共有不動産を競売にかけた場合の売却額は任意売却での売却額よりも安くなる場合が多いです。
任意売却 | 競売 |
---|---|
1,500万円 | 1,050万円 |
2,500万円 | 1,750万円 |
3,500万円 | 2,450万円 |
4,500万円 | 3,150万円 |
5,500万円 | 3,850万円 |
共有物分割請求での競売が起きる流れは、こちらの記事を参考にしてください。
競売をするには裁判が必要!共有物分割請求時における競売について解説します
共有物分割請求を起こさず持分売却するのもひとつ
共有物分割請求の裁判費用が高い場合、共有持分だけを売却するのもよいでしょう。
あまり知られていませんが、他共有者の合意がなくても、自分の持分だけなら自由に売却できます。
持分売却には以下のメリットがあるため、共有物分割請求を起こすより費用をかけずに共有持分を現金化できます。
- 裁判費用をかけずに共有関係を解消できる
- 専門業者なら共有持分を高額買取できる
それぞれのメリットをくわしく見ていきましょう。
裁判費用をかけずに共有関係を解消できる
先述したとおり、共有物分割請求で共有関係を解消する場合、ケースにもよりますが約100万円前後の裁判費用がかかります。
しかし、持分売却であれば裁判費用はかからないため、共有物分割請求を起こす場合よりも費用を抑えて共有関係を解消できます。
裁判費用だけでなく手間もかからないので、裁判を起こす場合に比べて6カ月ほど早く共有関係を解消可能です。
専門業者なら共有持分を高額買取できる
「共有持分だけ売却しても安くなりそう・・・」と思うかもしれませんが、一概にそうとは限りません。
確かに共有持分の扱い慣れていない不動産仲介業者や、共有持分専門でない買取業者へ売却しても、安値で買い叩かれてしまうケースは多いです。
しかし、共有持分専門の買取業者なら、持分を買取してから他共有者からも共有不動産を丸ごと買取して、投資家や他の不動産業者へ売却できるため、一般的な不動産業者では安く買い叩かれる共有持分も高額買取してくれます。
以下の記事では、共有持分を買取している専門業者を解説しているので、参考にしてみてください。
【共有持分の買取業者おすすめ28選!】共有名義不動産が高額買取業者の特徴と悪質業者の見極めポイント!
共有物分割請求を起こす前には必ず訴額を調べよう
共有分割請求を起こす方に向けて、訴額の計算方法や、裁判費用などへの影響を解説しました。
共有持分の固定資産税評価額が高いほど訴額も高くなり、裁判を起こす際の裁判費用も高くなります。
また、訴額によって訴状を提出する裁判所も変わるので、共有物分割請求の裁判を起こす前には必ず訴額を調べておきましょう。
ただし、裁判費用をかけて共有不動産を分割しても、分割後の共有不動産は価格が下がるため、共有物分割請求の裁判は費用対効果が良いとはいえません。
共有物分割請求にかかる裁判費用が勿体ないと感じる場合、裁判費用のかからない「持分売却」で共有持分だけを売却するとよいでしょう。
共有物分割請求についてよくある質問
共有持分をもつ人が、他の共有者に対して「共有物の分割」を求める行為です。共有物分割請求は拒否できないため、だれかが請求したら必ず分割に向けた話し合いをする必要があります。
共有不動産を売却して売却益を分割する「換価分割」や、共有者間で持分売買をおこなう「代償分割」のほか、不動産を切り分けて単独名義にする「現物分割」があります。
訴訟に発展し、裁判によって分割方法が決定されます。また、裁判でも和解できない場合は、共有不動産を競売にかける強制的な換価分割がおこなわれます。競売は通常の売却より価格が安くなるので、競売にかけられる前に和解したほうがお得といえるでしょう。
訴額とは「訴訟の目的の価額」とも呼ばれ、訴訟を起こして原告が得られる利益のことです。訴状の作成にかかる手数料を算出する基礎となります。
共有物分割請求訴訟の場合は、土地なら「固定資産税評価額×持分割合×1/6」で計算し、建物なら「固定資産税評価額×持分割合×1/3」で計算します。