「お金を払ってもいいから共有不動産を自分だけのものにしたい!」と考え人もいるでしょう。
共有物分割請求訴訟を起こして「全面的価格賠償」が認められると、他共有者から共有持分を買取れます。すべての共有持分を買取れば、不動産は自分だけの単独名義になります。
しかし、共有物分割請求訴訟は裁判官が中立的な立場で判決を下すため、確実に共有持分を買取れるとは限りません。
共有物分割請求訴訟は、法律の知識や共有者との交渉力が大切です。弁護士に相談して、訴状作成から交渉まで代行してもらうとよいでしょう。
また、反対に「共有物分割請求訴訟を起こされて困っている」という人は、自分の持分のみ売却して共有状態を解消することをおすすめします。共有持分専門の買取業者であれば、高額買取と最短数日での現金化が可能です。
>>【最短12時間で価格がわかる!】共有持分の買取査定窓口はこちら
- 全面的価格賠償を求める場合、共有物分割請求訴訟の訴状に買取金額などを記載する。
- 共有物分割請求訴訟を起こしても、全面的価格賠償が認められるとは限らない。
- 全面的価格賠償が認められない場合、共有持分だけ売却するのがおすすめ。
全面的価格賠償とは共有者の1人が共有不動産を丸ごと買取すること
はじめに「全面的価格賠償とは何か?」を再確認しておきましょう。
全面的価格賠償とは、共有者の1人が他共有者から持分をすべて買い取って、共有不動産を自分の単独名義にすることです。
共有者の1人が共有不動産を全面的に取得して、他共有者へ持分相応の価格を賠償することから「全面的価格賠償」と呼ばれます。
イメージしやすいように具体例を使って説明します。
このときAさんが全面的価格賠償による分割をすると、次のようになります。
・Aさん=Bさん・Cさんへ金銭を支払い、共有不動産を単独所有できる。
・Bさん=共有持分を手放して、Aさんから相応額の金銭を受け取る。
・Cさん=共有持分を手放して、Aさんから相応額の金銭を受け取る。
他共有者が反対する場合の全面的価格賠償には共有物分割請求訴訟が必要
共有者の1人が「他共有者の持分を自分がすべて買取したい」と主張しても、他共有者が全面的価格賠償に賛成するとは限りません。
「共有不動産を買取されると、住む場所を失ってしまう」などの理由から、他共有者が全面的価格賠償に反対するケースも多いです。
もし他共有者が全面的価格賠償に反対する場合は「共有物分割請求訴訟」という裁判を起こして、裁判所命令で全面的価格賠償を認めさせる必要があります。
全面的価格賠償を求める共有物分割請求訴訟を起こすときの流れ
共有物分割請求訴訟で全面的価格賠償を求める場合、次の流れで裁判が進みます。
- 原告が地方裁判所に訴状を提出する
- 裁判所から共有者全員へ呼出状が送付される
- 口頭弁論という場で、共有者同士の主張を擦り合わせる
- 裁判所の審議を経て、判決が下される
まず原告が訴状を提出すると、被告である他共有者にも訴状が送られた後、約1カ月後に初回の口頭弁論が開かれます。
口頭弁論は1回で済むケースもありますが、約1カ月に一度のペースで、2~3回ほど開かれるケースも多いです。
口頭弁論後の裁判官による審理にも2~3カ月程度かかるため、訴状提出から判決が出るまで合計して半年ほどかかると考えておきましょう。
共有物分割請求訴訟の流れをくわしく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
共有物分割請求とは?共有物の分割方法や訴訟の手順・費用を詳しく解説
全面的価格賠償を求める訴状の書き方
共有物分割請求訴訟で全面的価格賠償を求めるには、まずは裁判所へ民事訴訟を提起するため、訴状を提出しましょう。
「民事訴訟法」では、訴状の記載事項に関して以下のように定義しています。
民事訴訟法 第133条 訴えの提起は、訴状を裁判所に提出してしなければならない。
2 訴状には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 当事者及び法定代理人
二 請求の趣旨及び原因
ですので、共有物分割請求訴訟の目的や状況などを裁判所へわかりやすく伝えるため、訴状では「請求の趣旨」などを項目別に分けて記載しなければなりません。
項目 | 説明 |
---|---|
原告 | 自分の氏名や住所 |
被告 | 他共有者の氏名や住所 |
請求の趣旨 | 共有不動産を買取したい旨 |
請求の原因 | 共有不動産を買取したい理由 |
物件目録 | 共有不動産の詳細 |
それぞれの項目ごとに、全面的価格賠償を求める訴状の書き方を解説します。
なお、訴状作成にかかる手数料などは、以下の記事を参考にしてください。
共有物分割請求の訴訟や訴状作成は弁護士へ依頼を!共有物分割請求訴訟の基礎知識をわかりやすく解説
「原告」には自分の氏名や住所を記載する
共有物分割請求訴訟では、裁判を提起した当事者を「原告」といいます。
つまり、自分から全面的価格賠償を求める場合、原告とは自分自身のことです。
ですので、次の例のように、原告である自分の氏名や住所を記載しましょう。
〒〇〇〇-〇〇〇〇
〇〇市〇〇区〇〇町〇〇丁目〇〇番〇〇号
原告 〇〇〇〇
「被告」には他共有者全員の氏名や住所を記載する
つづいて「被告」とは、共有物分割請求訴訟において裁判を起こされた人物を指します。
ただし、全面的価格賠償を求める共有物分割請求訴訟を起こす場合、共有者全員を当事者にする必要があります。
ですので、次のように被告である他共有者全員の氏名や住所を記載しましょう。
〒△△△-△△△△
△△市△△区△△町△△丁目△△番△△号
被告△△△△
〒□□□-□□□□
□□市□□区□□町□□丁目□□番□□号
被告□□□□
「請求の趣旨」には買取金額などを記載する
「請求の趣旨」とは、わかりやすくいうと「どのように共有不動産を分割したいか?」という内容です。
裁判官に言い渡してほしい判決を記載すればよいので、全面的価格賠償の場合は「被告の持分を◯◯円で原告が買取する」という内容で問題ありません。
以下のように、他共有者の持分をすべて自分へ移す請求と、その対価として渡す買取金額などを「請求の趣旨」として記載しましょう。
請求の趣旨
1.別紙物件目録記載の土地を次のとおり分割する。
(1)別紙物件目録記載の土地を原告の所有とする。
(2)被告は、原告から〇〇円の支払を受けるのと引き換えに、原告に対し、別紙物件目録記載の土地の持分2分の1について、共有物分割を原因とする持分移転登記手続をせよ。
2.訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
金額まで記載しておくと「被告から原告へ〇〇円支払う」ことを命じる文言が判決に加えられる場合があります。
「請求の原因」には共有関係の起きた経緯などを記載する
「請求の趣旨」が結論とすれば、その根拠が「請求の原因」です。
全面的価格賠償の相当性を判断する材料として、平成8年の最高裁判所の判決文では以下の項目を挙げています。
- 共有物の性質及び形状
- 共有関係の発生原因
- 共有者の数及び持分の割合
- 共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値
- 分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情
ですので、全面的価格賠償を認めさせるには、上記の項目を満たすように共有関係の起きた経緯などを「請求の原因」として記載するとよいでしょう。
請求の原因
1.別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という)は、原告が2分の1、被告が2分の1の持分を有する共有物である。
2.本件土地は、この土地に接続する原・被告の各所有地を使用するための通路として、原・被告の共有となっていた。
3.ところが、その後、原告の所有地に接する公道が拡幅されると伴に、被告も隣接地を買い増すことで公道に接することとなり、本件土地を双方の通路として確保する必要がなくなった。
4.そこで、原告は被告に対し、平成○○年○○月○○日に本件土地を分割するよう請求したが、協議が調わなかった。
5.よって、原告は、民法第258条第1項に基づき本件土地の分割を請求する。上記のとおり、訴えを提起する。
「物件目録」には共有不動産の所在などを記載する
物件目録とは、裁判の対象となる不動産を特定するための情報です。
ですので、分割したい共有不動産の所在などを物件目録として記載しましょう。
ただし、土地の場合と建物の場合では、記載すべき内容が異なるため注意が必要です。
- 土地の場合=所在・地番・地目・地積
- 建物の場合=所在・家屋番号・種類・構造・床面積
買取したい共有不動産が区分建物の場合、以下の情報も必要です。
- 一棟の建物の表示=家屋番号・建物の名称(建物の番号)・種類・構造・床面積
- 専有部分の建物の表示=家屋番号・建物の名称・種類・構造・床面積
- 敷地権の目的たる土地の表示=土地の符号・所在および地番・地目・地積
- 敷地権の表示=土地の符号・敷地権の種類・敷地権の割合
また、各物件の末尾には、各共有者の氏名・持分割合なども記載しましょう。
物件目録の記載例は以下の通りです。
(1)土地及び建物(土地所有者○○○○、建物所有者○○○○及び○○××共有)
1.所在 ○○区○○町○丁目
地番 ○番○
地目 宅地
地積 ○○○○.○○平方メートル
所有者 ○○○○
2.所在 ○○▲丁目○番地
家屋番号 ○○番○
種類 居宅
構造 鉄骨造2階建
床面積 1階 ○○.○○平方メートル
2階 ○○.○○平方メートル
共有者 ○○○○ 持分○○分の○
共有者 ○○×× 持分○○分の○
全面的価格賠償を求める訴状が届いたときの対処法
共有者全員に共有物分割請求訴訟を起こす権利があるため、他共有者から全面的価格賠償を求められるケースも珍しくありません。
他共有者から全面的価格賠償を請求された場合、適切に対処しないと他共有者の主張が認められて、共有持分を買い取られてしまう恐れがあります。
他共有者から訴状が届いた際、全面的価格賠償を避けるための対処法を解説します。
全面的価格賠償に応じたくない場合は無視せず反論しよう
全面的価格賠償を求める訴状が届いた場合、けっして無視をしてはいけません。
訴状が届いた後、答弁書を提出せず、口頭弁論にも出廷しないと、原告の請求どおり全面的価格賠償が認められてしまうケースが多いです。
答弁書の提出や口頭弁論の出廷には費用もかからないので、全面的価格賠償に応じたくない場合、必ず無視せず反論しましょう。
1.答弁書を裁判所に提出する
まず被告側は原告の主張に反論するために「答弁書」を提出しましょう。
答弁書とは、原告の訴状に書かれた「請求の趣旨」や「請求の原因」に対する認否などを記した書面のことです。
原告が訴状を提出してから約1カ月程度で、裁判所から共有者全員に答弁書と呼出状がセットで送付されてきます。
ですので、全面的価格賠償を避けたい旨を答弁書に記載して提出しましょう。
答弁書は書式から多少外れても裁判で不利になることはないので、厳密に記載しなくても「原告の請求を棄却する」旨さえ記載すれば問題ありません。
ただし、口頭弁論では答弁書の内容を踏まえて協議されるため、口頭弁論期日の1週間前までに裁判所に提出する必要があります。
2.裁判所での口頭弁論に出廷する
答弁書の提出後、裁判所で開かれる口頭弁論で原告・被告双方の主張を擦り合わせます。
口頭弁論とは、被告・原告本人または代理人が裁判官の前で、請求の趣旨に対して意見や主張を交えることです。
答弁書さえ送付すれば、口頭弁論に欠席しても問題ないため、欠席する被告も多いですが、全面的価格賠償を避けたいのであれば、出廷した方がよいでしょう。
どうしても全面的価格賠償を避けたい場合は弁護士へ依頼
弁護士を立てて共有物分割請求訴訟を起こす原告も多いため、こちらも弁護士へ依頼しないと全面的価格賠償が認められてしまう可能性が高いです。
ただし、弁護士にも得意不得意があり、共有物分割請求訴訟を扱った経験のない弁護士も珍しくありません。
弁護士を選べない「法テラス」などへ相談すると、刑事事件を扱う弁護士へ依頼してしまう方も多く、共有物分割請求訴訟に敗訴してしまう恐れがあります。
裁判を有利に進めて全面的価格賠償を避けたいのであれば、弁護士と提携している不動産業者へ相談して、共有物分割請求訴訟を得意とする弁護士を紹介してもらうとよいでしょう。
共有物分割請求訴訟を依頼する場合の弁護士費用などは、こちらの記事を参考にしてください。
共有物分割請求の弁護士費用はどれくらい?算出方法と節約術を詳しく解説
共有物分割請求訴訟を起こしても全面的価格賠償が認められるとは限らない
共有物分割請求訴訟を起こしても、裁判官が全面的価格賠償を認めるとは限りません。
共有物分割請求訴訟の結果、裁判官によって以下の4種類から分割方法が決められます。
分割方法 | 説明 |
---|---|
現物分割 | 共有不動産を物理的に分ける |
一部価格賠償 | 共有不動産を現物分割しつつ差額を払う |
全面的価格賠償 | 共有者の1人が持分をすべて買取する |
換価分割 | 共有不動産を売却して売却益を分け合う |
つまり、全面的価格賠償ではない分割方法が選ばれる可能性もあるのです。
全面的価格賠償の認められる条件について、平成8年の最高裁判所の判決文では、以下を挙げています。
- 当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であること。
- 価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないこと。
ここでは、共有物分割請求訴状で全面的価格賠償が認められないケースを解説します。
1.被告が共有不動産に住んでいる場合は認められにくい
もし持分割合が多いAさんと持分割合の少ないBさんがいれば、Aさんに共有不動産を取得させるのが相当と判断されるでしょう。
なぜなら、全面的価格賠償を求める共有物分割請求訴訟は「共有不動産を原告がすべて取得することに相当性があるか?」で判断されるからです。
ですので、原告以外の他共有者が共有不動産に住んでいる場合、全面的価格賠償をおこなうと住む場所を失ってしまうので、全面的価格賠償が認められにくい傾向にあります。
反対にいえば、原告が共有不動産に住んでいる場合は「相当性がある」と判断されるため、全面的価格賠償が認められやすいです。
2.共有不動産を買取する側に支払能力がないと認められにくい
「原告が共有不動産を買取できるか?」という点も、裁判官の判断材料になります。
もし裁判所が「AさんがBさんへ1,000万円払い、Bさんの持分を買取する」ように命じても、Aさんに1,000万円を支払える資力がないと、全面的価格賠償は実行できませんね。
ですので、共有不動産を買取する側に他共有者へ買取価格を払える資力があると裁判所が認めない限り、全面的価格賠償は認められません。
全面的価格賠償が認められる可能性を高めるには、買取価格の正統性を示す資料や資力証明する資料を準備しておくとよいでしょう。
全面的価格賠償が認められない場合は持分売却で現金化しよう
この記事では、全面的価格賠償を求める訴状の書き方や、訴状が届いた場合の対処法を解説しました。
共有物分割請求訴訟が起きても、必ずしも全面的価格賠償が認められるとは限りません。
もし自分が被告であれば、全面的価格賠償が棄却されても問題ありませんが、原告であれば他の方法を検討しなければなりません。
全面的価格賠償が認められない場合、持分売却で共有関係を解消しつつ、自分の持分だけ現金化するのもひとつです。
なぜなら、控訴しても裁判費用がかかる上、再審でも全面的価格賠償が認められるとは限らないからです。
持分売却であれば、他共有者が分割に反対していても、裁判費用をかけず自分の共有持分だけをスムーズに現金化できます。
ただし、一般的な不動産業者などへ持分売却すると、安価で買い叩かれてしまうケースも少なくありません。
以下の記事で紹介している、共有持分専門の買取業者であれば高額買取できるので、いちど相談してみるとよいでしょう。
【共有持分の買取業者おすすめ28選!】共有名義不動産が高額買取業者の特徴と悪質業者の見極めポイント!
全面的価格賠償についてよくある質問
全面的価格賠償とは、共有物分割請求において、共有者の1人が他共有者から共有持分をすべて買い取り、単独名義にする分割方法です。
共有者のだれかに、他共有者の共有持分を買い取る意思と資金がなければいけません。強制的に買い取らせることはできないので注意しましょう。
客観的に「全面的価格賠償をおこなうのが適切である」と判断された場合は、裁判でもそのような判決になるでしょう。ただし、共有者の意思や経済状況の他、裁判に至るまでの経緯など個別の状況によるので、確実に全面的価格賠償をできるとはいえません。
共有不動産を売却して売却益を分割する「換価分割」や、不動産を切り分けて単独名義にする「現物分割」があります。
自分の共有持分だけ売却すれば、最短数日で共有状態を解消できます。共有持分を専門としている買取業者のなかでも「弁護士と連携している専門買取業者」なら、高額買取やトラブル解決のサポートが可能です。→弁護士と連携した買取業者はこちら