不動産の共有状態を解消する方法として「共有物分割請求」があります。共有物分割請求をおこなうと共有者は全員、共有状態を解消するための話し合いや裁判をしなければいけません。
しかし、特定の共有者が著しく不利益を受ける場合は、権利濫用として共有物分割請求ができないケースもあります。
権利濫用になる明確な基準はありませんが、例えば「共有物分割請求をすると住む場所を失ってしまう」といった理由で権利濫用が認められたケースがあります。
権利濫用が認められるような共有不動産は、共有物分割請求ではなく自分の共有持分のみを売却したほうが、スムーズに共有状態を解消できるでしょう。
弁護士と連携している共有持分専門の買取業者であれば、共有物分割請求が可能か、それとも共有持分のみ売却したほうがよいかのアドバイスもできます。無料査定を利用して、共有状態の適切な解消方法を聞いてみましょう。
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- 共有物分割請求で権利濫用が適用される明確な基準はない。
- 共有物分割請求が権利濫用で棄却されたら、再度請求することは難しい。
- 共有物分割請求が権利濫用で棄却されたら、共有持分の売却や放棄で共有関係を解消できる。
共有物分割請求は権利濫用で棄却される可能性がある
共有物分割請求権は、共有者それぞれに認められた「共有で所有している不動産の分割を求める権利」です。
共有物分割請求は不分割特約を結んでいない限り共有者ならいつでも請求でき、分割が認められることが一般的です。
しかし共有物分割請求により、共有者の誰かが著しく不利益を被る場合や不合理な結果をもたらすと判断されると「権利濫用」で棄却されるケースがあります。
権利濫用は共有物分割請求に限らず、認められた権利だからと不当な目的で行使したり主張することがないように、民法で規定されています。
民法第1条の3 権利の濫用は、これを許さない。
引用:e-Govポータル「民法第1条の3」
共有物分割請求の概要については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
共有物分割請求とは?共有物の分割方法や訴訟の手順・費用を詳しく解説一度権利濫用が認められると再度の分割請求は難しい
共有物分割請求訴訟が権利濫用で棄却となった場合は、再度共有物分割請求をするのは難しいです。
判決に不服があるときは、控訴・上告という手段があります。どちらも敗訴した方に与えられている手段であり、期間内に申立てをしなければなりません。
期間内に申立てをしなかった場合や、控訴審・上告審ともに敗訴すると判決が確定します。
そして、確定した判決が覆ることは基本的にありません。
民事訴訟法に基づいた再審事由が認められれば、再審が請求できますが可能性は非常に低いです。
- 判決が確定に至った証拠が偽造や変造であることを完全に証明でき、且つその犯罪行為について有罪が確定した場合
- 訴状や判決を第三者の妨げなどにより受け取ることができず、本人が裁判の事実を知らないまま判決に至った場合
- 判決に影響のある重大な事項について、判断がされなかった場合
※誤った判断や、取り上げる必要がないと判断されたために主張されなかった場合は再審事由となりません。
上記は再審事由が認められる一例ですが、控訴審・上告審を経て判決が確定した内容にこれらのような事由が発生することは非常に稀です。
また個人的に上記のような事由があると考えていても、それを裁判官や相手の弁護士に100%証明する必要があります。
そのため一度、共有物分割請求訴訟が権利濫用によって棄却されると、再度同じ共有不動産に対して共有物分割請求訴訟を起こすことは基本的にできません。
共有物分割請求訴訟が権利濫用により棄却されてしまった場合の対処法は、後の項目で詳しく説明しています。
権利濫用が確実に認められる事情は存在しない
過去の判例を見てみると、同じような状況であっても権利濫用が認められているものとそうでないものがあります。
というのも、状況は同じであっても不動産の価値は常に変化しますし、立地条件などによっても大きく異なります。
また、建物と土地における共有者の共有持分割合も、ケースによって違うのが通常です。
さらに不動産が共有になった経緯が相続なのか共同購入なのか、遺産分割協議書や遺言書の有無なども大きく関わってきます。
そのため、共有物分割請求訴訟において権利濫用が確実に認められる事情は存在しません。
自分のケースが権利濫用にあたるか悩んでいるのであれば、一度弁護士に相談してみるとよいでしょう。
共有物分割請求が権利濫用とされた例
この項目では、権利濫用が適用されて共有物分割請求訴訟が棄却された例を紹介します。
前の項目でも述べたように、共有物分割請求はあらゆる状況がケースごとに異なるため、絶対に権利濫用が認められる理由はありません。
共有者それぞれの現在の経済状況や、固定資産税の支払状況などさまざまな観点から訴訟がおこなわれます。
そのため共有物分割請求訴訟を起こそうと考えているのなら、税金の支払いが証明できる書類や、共有不動産の現在の使用状況がよく分かる資料などを用意しておくのがおすすめです。
また、共有物分割請求訴訟は個々の事情に大きく左右されるため、権利濫用にあたらないとする根拠を提示できるとよいでしょう。
共有物分割請求を起こした側に十分な資力が認められるとき
以下は共有物分割請求訴訟を起こした側に十分な資力があり、共有物分割請求を認めると一方が不利益を被るとされて権利の濫用が適用されたケースです。
土地と建物を共有していた別居中の夫婦で、夫が妻に対して共有物分割請求訴訟を起こしました。
妻は子供とともに共有不動産に住んでおり、訴訟により競売が認められると住む場所を失います。
また、妻には代償分割に応じる経済力はなく、夫は代償分割や競売によって金銭を得なくても十分な資力があると判断されたため、権利濫用によりこの訴訟は棄却されました。
つまり、この訴訟では共有物分割訴訟が認められると、共有不動産に住んでいる妻と子供が不利益を被るとして権利濫用が適用されています。
またこの訴訟では、子供が病気を患っていて妻が看病で十分に働けないことや、夫が十分な生活費を妻子に渡していなかったことなども論点となりました。
共有物分割請求が認められると住む場所がなくなる共有者がいるとき
以下は双方に経済的余裕がない場合に、共有物分割請求訴訟が棄却された判例です。
母親と息子で共有しているマンションに対して息子が共有物分割請求訴訟を起こし、1,300万円の価格賠償を求めました。
しかし母親には価格賠償に応じるだけの資力がありませんでした。その場合、通常なら競売による分割が採択されますが、競売となると母親の住む場所がなくなるために権利濫用が適用されて棄却となりました。
この訴訟では、息子側も経済的な余裕がなかったため価格代償や競売が認められる可能性も十分にありました。
しかし、長年母親がマンションの管理や維持費の支払をしてきたことも理由の1つとなり、棄却となっています。
つまり、正当な理由(この場合は、息子が経済的な余裕がないために共有物の価格賠償を主張したこと)があっても長年費用を負担してきた事実があることや、今後も住み続けることが前提となっていたため、公平性を期すためにも権利の濫用が適用されたのです。
共有物分割請求が権利濫用で棄却された後の対処法
共有物分割請求が権利濫用で棄却されたとしても、共有関係を解消する方法はあります。
自分の持分のみであれば自由に売却ができますし、共有持分の譲渡や放棄によっても共有関係を解消することが可能です。
また共有持分を所有しておきたい場合は、共有不動産に住んでいる共有者へ家賃を請求して収入を得る方法もあります。
それぞれの方法を詳しくお伝えします。
自分の持分のみを売却する
自分の共有持分であれば、他共有者の同意がなくても自由に売却できます。
売却先は、他共有者でも第三者でも問題ありません。
ただし共有持分のみでの売却は、不動産全体での売却に比べて大幅に価格が下がることが一般的です。
そのため、共有持分専門の買取業者に依頼をするのがおすすめです。
共有持分専門の買取業者は、共有持分を買取った後の活用に長けており、相場と変わらない値段で買取できるケースが多くあります。
無料査定を実施している業者もあるので、迷ったら相談してみるとよいでしょう。
また、共有持分の買取価格を上げる方法を以下の記事で解説していますので、参考にしてください。
【共有持分の買取業者おすすめ28選!】共有名義不動産が高額買取業者の特徴と悪質業者の見極めポイント!共有持分を放棄する
共有持分を放棄する方法があります。
共有持分の放棄も、売却と同様に他共有者の同意なく単独でおこなえます。
しかし、共有持分の放棄を完了させるための登記は、他共有者の協力が必要です。
そのため共有持分を放棄するときは、他共有者に知らせてからおこなうのがよいでしょう。
共有持分は放棄できる!放棄の手順や放棄後の登記も詳しく解説します共有持分を放棄すると贈与とみなされ「贈与税」の対象となることもある
共有持分を放棄するとその持分は他共有者へ持分割合に応じて分配されます。その際は、共有者間で贈与があったとみなされて贈与税の対象となります。
年間に贈与を受けた総額が110万円以下であれば、贈与税は控除される制度があるので活用するのがおすすめです。
共有持分の「所有・取得・譲渡・売却」にかかる税金を解説!税負担を軽減する公的制度もあわせて紹介!
共有持分を譲渡する
共有持分を譲渡することでも共有関係を解消できます。
譲渡も放棄と同様に、共有持分を対価なしで手放す方法です。
ただし、放棄では共有持分を譲る相手を選ぶことができませんが、譲渡は共有持分を譲る相手を指定できます。
【共有持分の譲渡の仕方】やり方と方法別の税金制度についても解説!
共有持分を一部だけ譲渡したいときは持分一部移転をする
共有持分を子供2人に半分ずつ譲渡したい場合などは、共有持分の一部移転が有効な手段です。
その場合は、登記や権利関係が複雑になるので注意しましょう。
共有持分を一部のみ譲渡するときにおける持分一部移転登記の方法は、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
共有持分の一部移転が必要なのはどんなとき?登記の区別方法をわかりやすく解説共有不動産に住んでいる共有者に家賃を請求する
共有持分を所有しておきたい場合は、住んでいる共有者に持分割合に応じた家賃を請求して収入を得ることができます。
ただし、住んでいる共有者が固定資産税や都市計画税などの税金を全額負担しているのなら、家賃を請求すると持分割合に応じた税金の支払いを求められることが考えられます。
また、自分の持分割合が過半数を超えている場合は、他共有者の同意がなくても賃貸借契約を結ぶことが可能です。
共有不動産が賃貸可能なマンションやアパートであれば、賃貸借契約をして収益を得る方法を検討してもよいでしょう。
共有物分割請求が権利濫用で棄却されたら共有持分の売却がおすすめ
共有物分割請求は共有者全員が行使できる権利であり、基本的に請求後は共有物の分割が認められます。
しかし、権利濫用が適用されて共有物分割請求が棄却されるケースがあります。
権利濫用が認められて棄却された共有不動産に対しては、再度共有物分割請求はできないのが一般的です。
その場合は、共有持分を売却や譲渡、放棄することで共有関係を解消できます。
共有持分の売却をするのなら、共有持分専門の買取業者に依頼をすると高値での売却が見込めるのでおすすめです。
まずは、複数の共有持分専門の買取業者へ無料査定を依頼するとよいでしょう。
共有物分割請求についてよくある質問
共有持分をもつ人が、他の共有者に対して「共有物の分割」を求める行為です。共有物分割請求は拒否できないため、だれかが請求したら必ず分割に向けた話し合いをする必要があります。
共有不動産を売却して売却益を分割する「換価分割」や、共有者間で持分売買をおこなう「代償分割」のほか、不動産を切り分けて単独名義にする「現物分割」があります。
共有物分割請求により、共有者の誰かが著しく不利益を被る場合や、不合理な結果をもたらす場合を指します。権利の濫用とみなされると、共有物の分割が認められません。
「夫婦の共有不動産に妻が住んでおり、別居中の夫が共有物分割請求をおこなうと妻の住むところがなくなってしまう」という状況で、権利の濫用とみなされたケースがあります。個々の状況次第で判断は異なるため、事前に弁護士へ相談しましょう。
訴訟によって権利の濫用とみなされた場合、再び共有物分割請求をするのは難しいでしょう。控訴・上告という手段はありますが、判決が確定した場合は基本的に覆りません。