共有持分における「一部移転」にはいくつかの種類があります。
どの「一部移転」に当てはまるか知ることは、移転後に必要となる登記においても重要です。
この記事では共有持分における一部移転の概要を詳しく説明していきます。
また、共有持分を一部移転するときの注意点についても説明していますので、ぜひ参考にしてみてください。

- 共有持分を一部移転すると権利関係が複雑になることがほとんどなので慎重にしよう。
- 所有権移転と持分移転の区別はもとの不動産名義が単独か共有かで判断する。
「持分or所有権」「一部or全部」登記の区別方法
共有持分を移転するときは基本的に「持分〇〇移転」とわれます。
では、よく混同される「所有権移転」と「持分移転」はなにが違うのでしょうか?
具体例を挙げながらわかりやすく解説していきます。
また「一部移転」と「全部移転」についても説明します。
所有権移転と持分移転はもとの不動産が単独名義か共有名義かで区別する
もとの不動産が単独名義であれば所有権移転登記だけで問題ありませんが、もとの不動産が共有名義の場合はさらに持分移転登記が必要です。
移転後に名義が単独となるか共有となるかは関係がないので注意しましょう。
例えば、相続において単独名義の不動産を複数の相続人で共有不動産とした場合は、もとの不動産が単独名義なので「所有権移転」のみとなります。
一方で、AとBで共有にしている不動産をCの単独名義とする場合は、もとが共有名義不動産なので所有権移転登記に加えて「持分移転」が必要です。
このように、移転後ではなく移転前の名義が単独であるか、共有であるかで判断します。
共有持分の一部移転なら持分一部移転
では次に「一部移転」と「全部移転」の違いを説明します。
例えば、持分割合1/2を持っている共有持分の1/4を子供へ譲渡した場合、移転するのは共有持分のうち一部だけなので「一部移転」です。
さらに、もとの不動産が共有持分なので「持分一部移転」となります。
もし上記のケースで、1/2の共有持分すべてを子供に譲渡したのなら、持分すべてが移転するので「全部移転」です。そして、もとが共有持分なので「持分全部移転」となります。
もとの所有者から移転する共有持分が、一部か全部かで移転の種類を区別します。
単独名義不動産の一部移転なら所有権一部移転
単独名義不動産においても、前の項目と考え方は同じです。
単独名義不動産を複数人で共有不動産として相続するとしたら、もとの不動産が単独なので所有権移転登記のみで問題ありません。
ここで注意したいのが「複数人で所有権をわけるのだから所有権一部移転」と思うかもしれませんが、この場合は「所有権全部移転」となります。
なぜなら「もとの所有者からすべての所有権が移転する」からです。
「一部移転」と「全部移転」を区別するときは「もとの所有者から」一部が移転しているのか、全部が移転しているのかを確認しましょう。
移転後の登記については次の記事で詳しく説明しているので参考にしてください。
共有持分の移転登記が必要な状況を詳しく解説!登記費用や税金についても説明します
共有持分の一部移転が起こるのはどんなとき?
共有持分の移転は、持分全部移転であるケースがほとんどです。
では、どのようなときに持分一部移転となるのか具体的に見ていきます。
共有持分の一部を譲渡したときは持分一部移転
共有持分の全部ではなく、一部を譲渡したときは持分一部移転となります。
例えば相続税の節税対策で、生前贈与として持分割合1/2のうち1/4を譲渡した場合です。
このケースでは、もとの不動産が共有持分であり、移転しているのは共有持分の一部なので「持分一部移転」に当てはまります。
ちなみに、持分を譲渡すると税法上は贈与とみなされるため、贈与税が課せられる場合があります。
その場合、年間の贈与額が110万円以下であれば控除が受けられるので、うまく活用するとよいでしょう。
共有持分の一部を売却したときは持分一部移転
共有不動産は自分の持分のみであれば、自由に売却ができます。売却にあたっては、持分の一部を売却することも可能です。
例えば、Aが持分割合1/2である共有持分を1/8ずつBとCに売却したとします。
その場合もとの不動産が共有であり、移転している持分は一部なので「持分一部移転」となります。
共有持分は持分全部移転が一般的
共有持分の移転がほとんど持分全部移転となるのは、以下のような理由があげられます。
共有持分の一部移転は、共有者を増やすことになります。
共有者が増えると権利関係が複雑になり、共有不動産における管理や売却がしにくくなることがほとんどです。
そのため共有持分の一部移転は他共有者の同意なくおこなえますが、のちの共有不動産における権利関係への影響も考慮してからするのがよいでしょう。
共有持分の一部移転は慎重にしよう
共有持分の一部移転は自分の持分のみであれば、共有者がそれぞれ自由におこなえます。
しかし、共有持分の一部移転によって権利関係が複雑になってしまったり、一部のみの売却は不利であることが多くあります。
また、持分の放棄など一部移転が認められないケースもあるので注意しましょう。
共有持分の一部売却は価格が低くなることが一般的
前の項目で述べたように、共有持分の一部を売却することは可能です。
ただし、共有持分は個人での活用や売却が難しいため、個人相手に買主を探すのは難易度が高く、また市場相場よりも大幅に低い価格となることが予想されます。
専門の買取業者や投資家相手であれば、買主は見つかるかもしれません。ただし、買取業者や投資家は持分を増やして活用することで利益を得ようとするので、残りの持分も買い取ろうとすることが一般的です。
また、売却できたとしても第三者が共有関係に入ることで権利関係が複雑になります。
そのため、第三者への売却による共有持分の一部移転はあまりおすすめしません。
共有持分の放棄で特定の共有者に多く分配することはできない
共有持分は売却でも贈与でもなく、放棄することも可能です。
民法第255条
共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。引用:e-Govポータル「民法第255条」
共有者が複数いる場合、帰属する持分はそれぞれの持分割合に応じ、特定の共有者に持分を多く分配することはできません。
そのため、特定の共有者へ持分を譲りたい場合は譲渡や売却するとよいでしょう。
持分を放棄すると、放棄した側は持分をすべて手放すことになるので「全部移転」が適切です。持分放棄において一部移転はできません。また、もとの不動産は共有であるため「持分全部移転」となります。
持分放棄については、以下の記事も参考にしてみてください。
共有持分は放棄できる!放棄の手順や放棄後の登記も詳しく解説します
共有持分における移転の違いを正しく理解して一部移転は慎重にしよう
ここまで解説したように、共有持分における移転にはいくつかの種類があります。
移転を区別するには「もとの不動産名義が単独か共有か」「もとの所有者から見て移転するのは一部か全部か」を確認しましょう。
もとの名義が単独の場合は所有権移転のみ、共有の場合はさらに持分移転が必要となります。
また持分移転において、もとの所有者から移転する持分が一部であれば持分一部移転、全部であれば持分全部移転となります。所有権移転に関しても同様です。
また、共有持分の移転は一部や全部に関わらず、他共有者の同意なくできます。
ただし、移転後の権利関係が複雑になってしまう可能性もあり、注意が必要です。
共有持分の一部移転は、他共有者へ相談してから慎重におこなうようにしましょう。