親や兄弟が亡くなったとき「不動産を相続するべきか」と迷う方をよく目にします。兄弟や親族でトラブルになることへ不安を抱いている方が多いのではないでしょうか。
兄弟がいる場合などには、不動産をそのまま相続できるとは限らないですよね。そこで不動産の権利だけを分けて「共有持分」として相続することがあります。
共有持分を相続する場合、1人で不動産を相続するケースとは扱いが変わります。
そのため「どのようなメリットやデメリットがあるのか」「何が起こるかわからない」と戸惑う人も多いのではないでしょうか。
共有持分のデメリットは対処法を知っていれば、解決できるものばかりです。
そこで今回は、共有持分を相続するメリットとデメリットを解説していきます。
その上で「共有持分を相続するか」悩んでいる人に向けた解決策も紹介します。

- 共有持分の相続には3つのメリットと5つのデメリットがある。
- 資産価値が負債を上回る場合、共有持分を相続する方がメリットが大きい。
- 相続した後で不要になったら、共有持分を売却すればデメリットを解消できる。
ひとつの不動産を複数人で相続したら共有不動産になる
まずはじめに、1つの不動産を2人以上で相続することは可能です。
以下のように、単独名義の不動産はもちろん、既に共有名義になっている不動産(共有不動産)を相続する場合も2人以上で所有することができます。
- 母が1人で所有していた不動産を兄弟2人で相続するケース
- もともと父が叔父と共有していた不動産を相続するケース
ただし、共有名義不動産は単独名義不動産とは異なり、法律上での扱いが異なるため注意が必要です。
相続した不動産は共有者全員のものになる
すべての不動産は法務局で登記簿に「どの不動産を誰が所有しているか」を登録し、データとして管理しています。
この登記簿上では、不動産の所有権をもつ権利者として複数人の名前を登録することができます。
つまり、1つの不動産に対して、複数人の持ち主がいるという状況も法律上は問題ありません。
ただし、それぞれの持ち主がもつ所有権は100%ではなく、それぞれ分配された権利になるため注意しましょう。
相続した不動産の権利「共有持分」は個人の所有物
1つの不動産を複数人で共有する場合、家や土地を物理的に分けることは難しいので、不動産の権利だけをそれぞれの共有者に分け与えます。
このとき分割された、共有不動産についての断片的な権利を「共有持分」といい、1人で所有する場合の土地の権利が100%だとしたら、共有持分は1~99%に分けた共有者それぞれの権利になります。
この共有持分は全員の共有物ではなく、共有者それぞれにおける個人の所有物になります。
つまり、共有不動産をそのまま相するのではなく、共有持分として不動産における所有権の一部だけを相続しているイメージです。
共有持分を相続するメリットは3つ
共有持分だけを相続する場合、コストや負担を分散できるというメリットがあります。
具体的にどのようなメリットがあるのか、それぞれ見ていきましょう。
①本来払うべき納税額より負担額が少ない
共有持分を相続する最大のメリットとして、1人で相続するより少ない負担で不動産を相続できることが挙げられます。
通常は不動産の資産価値が高いほど、その不動産にかかる固定資産税も多くなりますが、共有不動産では共有者全員で分割して税金を払うので、1人あたりの納税額を抑えることができます。
この土地の固定資産税が100万円だとすると、それぞれの負担額は以下のようになります。
・Aさんの負担額=100万円×1/2=50万円
・Bさんの負担額=100万円×1/2=50万円
このように、本来払うべき納税額より低い負担額で不動産を所有できるのです。
共有不動産には固定資産税だけでなく都市計画税もかかりますが、こちらも同様に1人あたりの負担を少なくできます。
②共有不動産を使用できる
相続した共有不動産そのものに出入りしたり、住むことができる点もメリットの1つです。
共有持分しか持っていなくても、それぞれの共有者には共有不動産を使用する権利が民法で認められています。
民法第249条
各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。引用:e-Govポータル「民法第249条」
これは「自分の持分が1/3だから土地の1/3しか使用できない」ということではなく、以下のように共有不動産に変更を加えない範囲であれば個人で自由に使用できます。
- 共有不動産の物件に住む
- 共有不動産の土地に車を停める
ただし、駐車場として第三者へ貸し出すなど、収益を得るようなことは認められていないので、共有不動産の賃貸借契約や売買は個人で自由におこなうことはできません。
③共有持分自体を売ることでお金にできる
相続した共有持分は、単体で売ることができるというメリットがあります。
その根拠として、個人の所有物については持ち主が自由に処分できることが民法で認められています。
民法第206条
所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する引用:e-Govポータル「民法第206条」
以下のように共有持分も個人の所有物なので、持ち主が自由に売却できます。
・共有不動産の持ち主=Aさん・Bさん・Cさんの3人
・Aさんの共有持分の持ち主=Aさん個人
・Bさんの共有持分の持ち主=Bさん個人
・Cさんの共有持分の持ち主=Cさん個人
そのため、他の共有者全員が反対していても、共有持分のみであれば売却が可能です。
共有持分を相続するデメリットは5つ
共有持分を相続する場合はメリットがある反面、デメリットもあることを忘れてはいけません。
デメリットを知らずに相続してしまうと、借金を背負う危険もあるので要注意です。
共有持分を相続することで、どのようなデメリットがあるのかを見ていきましょう。
①相続時に相続税を負担する必要がある
1つ目のデメリットとして、相続税を支払わなければならないことが挙げられます。
相続できる遺産が一定の金額を超えるときは、相続税を負担する必要があります。
以下の式で計算できる「基礎控除額」を遺産が上回る場合、相続時に相続税を払わなければなりません。
・相続税の基礎控除額=3,000万円+ 600万円×法定相続人の数
ですので、相続できる遺産の総額によって以下のようにパターン分けできます。
①相続税を支払わなくてよいパターン
相続できる遺産の総額が「3,000万円+ 600万円×法定相続人の数」より少ない
②相続税を支払う必要のあるパターン
相続できる遺産の総額が「3,000万円+ 600万円×法定相続人の数」より多い
もし相続税を負担したくないのであれば、相続そのものを取りやめることもできます。
②固定資産税や都市計画税を納税しなければならない
本来より少ないとはいえ、固定資産税や都市計画税を払わなければいけないこともデメリットのひとつです。
とくに以下のように共有不動産を利用しないのであれば、税金を払うメリットは少ないです。
- 共有不動産には兄弟が住んでいるので自分は一切使用しない
- 地方の実家の共有不動産を相続しても使う機会がない
共有持分を持っている限り納税は避けられないので、固定資産税や都市計画税を払いたくない場合は共有持分を手放すとよいでしょう。
③共有不動産を貸したり売ることはできない
共有持分を相続しても、共有不動産を自由に扱うことはできません。
例えば、住んでいる人がいるのに他の誰かが勝手に共有不動産を売却したら困ってしまいますよね。
そのため、共有不動産は個人で自由に貸したり売ることができないよう、法律で決められています。
ここでは共有不動産を貸す場合と売る場合、それぞれの法律を確認していきましょう。
共有不動産を貸すには過半数の持分が必要
共有不動産を貸すことを法律では「管理行為」といいます。
具体的には、以下のような「共有不動産の性質を変えない範囲で利用または改良する」ことです。
- 共有不動産を賃貸物件として貸し出す
- 貸し出すために共有不動産をリフォームする
こうした管理行為は持分割合における過半数の同意がないと不可能であると民法で定められています。
民法第252条
共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。
ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。引用:e-Govポータル「民法第252条」
ここでの過半数というのは、共有者の人数における過半数ではなく共有持分割合の過半数です。
そのため、過半数以上の持分を持つ共有者であれば、他共有者の同意がなくても賃貸借契約ができます。
・CさんとDさんが貸したい(1/8+1/8=2/8)
この場合は2人が貸したくても、持分が過半数にならないので貸すことができません。
・Bさんが1人が貸したい(3/4)
この場合は持分の過半数があるので、他の共有者に反対されても貸すことができます。
共有不動産を売るには共有者全員の同意が必要
法律では、共有不動産を売ることや取り壊すことを「変更行為」といいます。
具体例としては、以下のような「共有不動産の形や性質を変える行為」のことです。
- 共有不動産を丸ごと売却する
- 共有不動産を増改築する
- 共有不動産を取り壊して更地にする
こうした変更行為は持分割合に関係なく共有者全員の同意がないとできないことが民法で決められています。
民法第251条
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。引用:e-Govポータル「民法第251条」
そのため、他の共有者が1人でも反対したら共有不動産を売却できないので注意が必要です。
・CさんとDさんが売りたい
この場合は共有者全員が同意していないので、共有不動産を売ることができません。
・BさんCさんDさん全員が売りたい
この場合は共有者全員の同意があるので、共有不動産を売ることができます。
共有不動産において共有者が10人以上になるようなことは珍しくありません。
そのようなケースでは、売却に反対する共有者がいるだけでなく連絡の取れない共有者がいたりと共有者全員の同意を得られずに、共有不動産の売却が難しいことが多いです。
連絡が取れない共有者がいる場合の対処法は、以下の記事で詳しく説明しています。

④他の共有者とトラブルになりやすい
ここまで説明したとおり、共有不動産では共有者同士の話し合いで意思決定をすることが多くありますが、全員の意見が揃わずに以下のようなトラブルが起こることは非常に多いです。
- 亡くなった母の土地をどちらが相続するか兄弟間で揉めている
- 共有している家を売りたいのに弟夫婦が納得してくれない
- 共有している土地に兄が勝手に家を建てようとしている
このようなトラブルが深刻化すると、裁判にまで発展してしまう可能性もあるので注意しましょう。
ここでは、よくあるトラブルをケースごとに解説していきます。
相続時の遺産の分け方で揉めやすい
そもそも相続する段階で、遺産の分け方について揉めるケースが非常に多いです。
- 亡くなった両親の面倒をみていたから他の兄弟より多く相続したい
- 実際に共有不動産に住んでいるから権利を全てほしい
- 当時は相続しなかったが数年経ってから遺産が欲しくなった
場合によっては、数年経ってからトラブルになる可能性もあるので注意しましょう。
共有者同士の話し合いで遺産の分け方が決まらない時は、遺産分割調停を申立てて裁判所を挟んで分割方法を決定する方法もあります。
参照:最高裁判所
相続した共有不動産の使い方で揉めやすい
相続した共有不動産の使い方について、共有者同士で意見が一致しないことも多いです。
- 亡くなった母の家を売却するかどうか姉妹で揉めている
- 兄弟で相続した実家に兄夫婦が許可なく住んでいる
- 親戚で共有している土地を共有者のひとりが勝手に駐車場として貸している
このようなトラブルは深刻化して訴訟などになりやすいです。
共有者同士は親族であることが多く、訴訟などということは避けたいと思う人が多いでしょう。
ただ、共有不動産のトラブルは法律に関する知識が欠かせず、個人での解決は困難であることが多いため、弁護士などの専門家に相談することがおすすめです。
他共有者が税金を滞納すると自分の財産まで差し押さえられる
他共有者が固定資産税などの共有不動産に関する税金を滞納した場合、自分の財産まで差し押さえられることがあります。
以下のようなケースでは共有持分の差し押さえが起こります。
- 他の共有者が共有不動産の税金を滞納している
- 納税通知の届く代表者が共有不動産の税金を払い忘れている
税金は共有者全員に納税義務があるため、1人が滞納しても連帯責任により、全員が差し押さえ対象になります。
差し押さえは預貯金のみでなく、給料にまで及ぶ可能性もあります。
固定資産税などの督促状が届いたら、他共有者の分も納税するか、すぐに自治体に出向いて分割納付などの相談をしましょう。
差し押さえが実行されると滞納分が回収できるまで解除されず、分割納付などの申請もできないことが原則です。
また、納税通知の届く代表者が滞納するのであれば、市区町村役場で代表者の変更も可能です。

知らないうちに共有者が増える可能性がある
自分の知らないところで、他の共有者の持分が第三者へと渡る可能性もあります。
以下のように、気づいたら第三者や不動産業者と共有関係になっていたケースも少なくありません。
- 他の共有者が亡くなることで持分が親族へ相続される
- 他の共有者が自分の持分を第三者に売ってしまう
共有不動産は基本的に、共有者が増えるほどトラブルが起きる可能性も高くなると考えてよいです。
また、共有者が増えることによって同意を得るのが困難になるので、共有不動産の賃貸借や売却がさらに難しくなります。
共有不動産を利用していないのであれば、トラブルとなる前に共有持分を売却してしまうのも解決策の1つです。
買取は不動産業者に依頼もできますし、共有不動産を利用している共有者がいるのなら買取を持ちかけてみるのもよいでしょう。
⑤被相続人の残した借金の返済義務がある
相続では、不動産や預貯金などの資産だけでなくローンや借金といった負債も引き継がれます。
以下のように、亡くなった被相続人に負債がある場合、その返済義務も相続されてしまいます。
- 購入した家のローンが残っているのに夫が亡くなった
- 亡くなった両親が自分の知らないところで借金をしていた
そのため、自分は借金をしていないのに、相続したために借金を抱えてしまうリスクがあります。
相続できる遺産よりも負債が多いときは、相続を取りやめるべきか考え直しましょう。
返済義務を回避するには全ての遺産を手放す必要がある
「相続放棄」という手続きをで、借金の返済義務ごと相続を取りやめることが可能です。
ただし「相続放棄」をする場合は借金だけでなく、全ての遺産が相続できなくなるので注意しましょう。
・資産1000万円だけを相続して、負債1500万円は放棄する
このように遺産だけを相続することは不可能です。
・資産1000万円と負債1500万円をどちらも相続する
このように資産と負債はセットで全て相続しなければなりません。
被相続人の遺産より負債が多い場合、相続放棄によって借金を背負うことを回避できます。
その反対に被相続人の遺産が負債より多い場合、相続放棄すると遺産を無駄にしてしまいます。
また、相続放棄は相続後にすることはできません。
そのため相続放棄するべきかは、相続前のタイミングでしっかりと考えるようにしましょう。
共有持分を売ることでデメリットを解消できる
ここまで見てきたように共有持分を相続すると、少なからずデメリットも背負うことになります。
こうしたデメリットに悩まされる場合、相続した共有持分を手放してしまうのもひとつです。
共有持分を手放す方法でおすすめなのが、共有持分の売却です。
先ほど紹介したデメリットは、共有持分を売却することですべて解決できます。
固定資産税や都市計画税の納税義務がなくなる
共有持分を売却することで、共有不動産についての権利や責任がなくなります。
つまり、共有不動産の「共有者」ではなくなるということです。
そのため、固定資産税や都市計画税といった税金を払う必要もなくなるので、経済的負担を減らすことができます。
他共有者とのトラブルを解決できる
共有不動産の「共有者」ではなくなるため、他共有者との共有関係も解消できます。
もしすでにトラブルが起きているとしても、その渦中から抜け出すことが可能です。
すでにトラブルの起きている共有持分の売却は、弁護士と提携している買取業者に依頼するのがおすすめです。
負債がある場合は売却額を返済に充てられる
「売却」にしかないメリットとして、共有持分をお金にできるということがあります。
ある程度まとまったお金が手に入れば、ローンの返済に充てたり家を買う資金にもできますし、被相続人に負債があるケースでも、その返済に充てることが可能です。
共有持分を売ったお金で負債を完済できるようであれば、相続放棄をしなくても借金を抱えずに遺産を相続できます。
相続してから必要なければ共有持分だけ売却するのがベスト
今回の記事では、共有持分を相続する場合のメリット・デメリットを解説しました。
共有持分は必要なければ売却できるので、相続してから共有持分だけを売却するのがベストですが、ケースによっては借金まで相続してしまう可能性もあります。
以下のように、相続できる遺産の総額が負債より多ければ、相続して問題ありません。
- 被相続人の遺産>被相続人の負債=相続した方がよい
- 被相続人の遺産<被相続人の負債=相続しない方がよい
相続後は、自分の共有持分はいつでも自由に売却できますので、必要がないようであれば、後から共有持分を売却するとよいでしょう。
ただし、普通の不動産業者や投資家では、買取拒否されたり安値で買い叩かれることも少なくありません。
確実に高値で買取してもらいたいのであれば、共有持分専門の買取業者へ売るのがおすすめです。